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第六十四話【全六十七話】/三月二十四日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


「みさき、身体は大丈夫か?」


「ええ、急所は外れていますので」


 薬師如来やくしにょらいの力で傷を塞ぐ。

 両手を黒く染めていた瘴気が、溶け出すように消えていった。


「伽耶、那珂彦の様子はどうだ?」


「大丈夫。気を失っているけど、状態は安定してる」


 結局、七瀬が無事なのかどうかはその姿を見るまで明らかではない。

 確かに魂は身体に留まっていたはずだ。

 いや、しかし……


「とにかく那珂彦を病院に連れていきましょう」

 みさきは顔を上げると、嘉治に促した。


「そうですね。川崎病院へ運びましょう」


 嘉治の車の後部座席に那珂彦を寝かせると、助手席に伽耶が乗り込んだ。

 その車の後をみさきの車が追う。

 七瀬はどの病院に行っただろうか。

 無事を確かめたいような、確かめたくないような、複雑な感情の狭間で揺れ動いていた。


「ドクターヘリに乗っていったという事は、川崎病院へ運ばれた可能性が高いです」


「そこに……」


 死の影がちらついては振りほどく。

 車内を陰鬱な空気が支配していた。


 程なくして、病院へ到着した。

 非常に大きな病院だ。

 小高い山に寄り添うように建てられており、折り重なって並ぶ建物群が空中回廊で繋がれていた。

 『高度救急救命センター』と冠された玄関へと向かう。

 玄関前のロータリーには既に係員が待機していた。

 どうやら伽耶が事前に連絡していたらしい。

 担架に載せられた那珂彦は、嘉治に付き添われて中へと入っていった。

 伽耶は見送るように、その場にしゃがみこんでしまう。


「大丈夫ですか、伽耶!」


「ええ。大丈夫。七瀬の事を考えると足が震えて……」

 みさきに支えられて辛うじて立ち上がった。


「……さあ、中に入りましょう。椅子くらいあるはずです」




 ガラス張りの扉を抜けて中へ入ると、長椅子がたくさん並んでいる。

 ここへ座って待つのだろう。

 幸い人が少ないようで、ゆったりとした大きな椅子に伽耶を座らせることができた。

 奥からは随分と騒がしい声が響いている。


「こういう所でも騒ぐ輩がいるんだな」


 騒がしい声は徐々に近づいてきた。


「真魚……」


「ん?」


「あの声は……」


 みさきが駆け出す。




「離せ、近江!」


「いーえ、離しません! 精密検査を受けて下さい!」

 身体に纏わりついた近江を引き摺って歩く、七瀬の姿があった。


「これだけ元気なんだ! すぐに現場へ戻る!」


「駄目です! お医者様の言う事を聞いて下さい!」




「七瀬っ!」


 みさきは駆け出したままの勢いで七瀬へ抱きつくと、声を上げて泣き出した。


「みさき、何故ここに……」


「その眼は……」


 七瀬が生きて動いている事にも驚いたが、その眼が放つ光に思わず声が洩れる。

 七瀬の瞳は紺碧こんぺきに輝いていた。


優鉢羅うはつら龍神の眼か……」


「そうだ。龍神に命を救われた。余計な置き土産をしてくれたもんだが」

 嗚咽を洩らすみさきを引き離すと、その眼を手で覆って恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 どうやらあおい瞳はお気に召さないらしい。


「お前たちこそ賀陽はどうした?」


「追っ払ったぞ。もう力を使うことはできんだろう」


「そうか……」

 七瀬は少し思案するような表情になった。


「へー、ハーフみたいでいいじゃん」

 いつの間にか七瀬の眼前に移動していた伽耶が、碧い瞳をまじまじと覗き込む。


「見世物じゃないぞ!」


 振り回された七瀬の腕をかわすと、背筋を正して真っすぐに対峙した。


「あなたには借りができたね」


「本当だよ。ああ、お腹が減った。何か買ってきてくれ。それでチャラでいい」


「いつかちゃんと返すよ」


 伽耶は今にも泣きだしそうな笑顔で、ありがとうと呟くと、購買を目指して駆け出した。


「足手まといだった鬼女おにおんなには飯炊きでもしてもらおうか」


 拭っても拭っても涙の止まらないみさきだが、ゆっくり立ち上がると諭すように言った。


「ちゃんと検査を受けたら、ね」




「ところで、近江、なんでお前がここにいる。本家に戻ったはずだろう」


「いや、それは、えーと……」


「つけてたのか⁉」


「心配だったんで、つい。お嬢様の感知範囲のギリギリ外から」


「気持ち悪いわ!」


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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