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第六十一話【全六十七話】/賀陽、遁走

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 割れた仮面の隙間から淡い光が差し込んでいる。

 受け身も取れず、全身を大地でしたたかに打った。

 それでも痛みは感じない。頭の中がすっきりとし過ぎていて、何も考えられない。

 身体にも力が入らない。

 ただ、涙だけが止めどなく溢れていた。




 どれくらい時間が経っただろう。


 いつの間にか雨は上がり、雲間からは陽が差していた。


 ふと、三田に会いたくなった。会って話したくなった。


 いまだ力の入らない身体を転がすようにして起き上がる。


 もう周囲には誰もいなくなっていた。


 止めを刺されなかった事、生きている事の不思議に寒気がする。


 陽の下にいる事に引け目を感じ、足を引きるように、森の中へ入った。




 帰ろう。三田の所へ。




 暗く湿った森のうすら寒さの中で、帰巣本能のような温かさだけが身体を動かしている。




 かさ……かさ……かさ……




 その時、一つの足音が聞こえた。

 落ち葉を踏む音。

 ゆっくりゆっくりと近づいてくる。


 あいつらが戻ってきたのか! 急に怖くなった。

 死にたくないと思った。

 考えるより先に手が動き、足が動いた。

 足音と逆の方向を指して駆け出した。


 振り返ると、白い影が迫っている。

 包み込むように貼りつく大量の人型の紙に足を取られ、地面に転がった。


「逃がすと思っているのか」


 声に振り返る。


「助けてくれ!」

 帰りたい! 三田の所へ!


 有無を言わさず右足を突き刺された。


「くぅっ!」

 苦悶の声が洩れる。


「お前は――!」




 皇典講研――二見!




「二見さん……助けて下さい!」


 今度は左足に激痛が走る。




「七瀬は命乞いをしたか?」




 嫌だっ! 帰るんだ!


 本能的に短刀を構える。


 二見が指を鳴らすと、短刀は砂のように朽ちていった。


「……!」


 もう声は出なかった。

 嗚咽だけが響く。

 二見は大量の人型の霊符をばらまくと、小さく呪文を唱えた。

 白い影が辺りを覆い、襲いかかる。

 両手で払い落とすが、追いつかない。

 大部分が身体に纏わりついた。

 人型は動きを止めることなく這い回り、仮面を割って口や鼻から内へ内へ入ろうとしている。


「ぐっ! ぐっ! おぉ!」


 もはや芋虫のように転がる事しかできない……。


 刀が振り下ろされる。


 七瀬の、刀……


「大師は優しすぎる……」


 最期に聞こえたのは囁きだった。


 意識が急速に遠のく。

 身体は寒く、凍えるようだ。

 二見の瞳には深い悲しみと、静かな怒りが宿っていた。

 目の前から光が失われていく。




 魂だけでも辿りつけるだろうか……




 三田の所へ……


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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感想はもちろん、

舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。

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