第五十四話/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「なぜ私の名前を!」
七瀬の叫びに黒装束は応えない。
短刀を両手に構えたまま、大きく腕で円を描くように動かし始める。
円が完成した刹那、その姿が消えた。
七瀬は動かない。いや、動けない。
先ほどとは違う。気配も何も感じない。
一瞬の短刀の素振る音で辛うじてその刃を躱す。
が、その衝撃が刃の後ろから襲いかかった。
吹き飛ばされた七瀬が、地面を転がる。
「この技……お前、まさか……」
七瀬の顔から血の気が失せた。
「|賀陽! 賀陽信一郎!」
「久しぶりにその名前で呼ばれたな」
「しかし、その身長……縮んでいる……」
「俺は力を手に入れた。刑部、お前は弱くなったようだ」
「お前の気配はどす黒く濁ったな、賀陽!」
七瀬は立ち上がると、賀陽へ向かって駆け出した。
勢いそのままに薙いだ霊刀を賀陽の短刀が受け止める。
刹那、最小限の動きで刀を捌いた賀陽が七瀬の背後を捉える。
七瀬は地面に手をつくと身体を前転させ、交差するように刀を躱す。
今度は賀陽の背中を七瀬が捉えた。
その瞬間、賀陽の姿が消える。
七瀬の顔が驚愕に歪んだ。
次にその姿が見えた時には、七瀬の横腹に真横から蹴りが捻じ込まれていた。
身体が鞠のように弾み、地面を転がっていく。
「速すぎる……これは……」
賀陽の追撃が迫る。
七瀬は膝を使って素早く跳ね起きると、霊刀を構えた。
一直線に飛び込んでくる賀陽の刀を、鍔元で受け止める。
「禁術か……」
「ご明察。これは成長すらも霊力に換える秘術――」
七瀬は受け止めた刀を大きく押し返す。
「馬鹿が! そんなものにまで手を出すとは……堕ちたな、賀陽!」
「俺たちに堕ちる場所なんてねえよ……」
賀陽は短刀を両手に構えたまま、
「お前もたくさん殺したんだろう……」
大きく腕で円を描くように動かし始める。
「俺と同じ匂いがするぞぉ」
円が完成した刹那、賀陽の姿が消えた。
「黙れっ!」
七瀬は霊刀を下段に構え直し眼を閉じると、その姿を消した。
一切の音が止む。
刹那、短刀が弧を描き、地面に突き立った。
時間差で賀陽の身体が地面を転がる。
その直後、再び姿を現した七瀬は膝をつき、肩で息をしていた。
「生身で禁術を越えるか……さすがだ。だが」
賀陽は傍に落ちていた銃に飛びつき拾い上げると、七瀬へ向けて発砲した。
「これを忘れているんじゃないか!」
身を捩って躱した七瀬から狙いを外すと、銃口を大男と組み合っていたみさきへ向けた。
「みさき!」
七瀬が叫ぶ。
躱した体勢から踏みとどまり、一足飛びでみさきの元へ駆け出すと、射線を遮るように身を乗り出した。
数発の銃声が響き渡る。
「七瀬!」
神体に翳していた両の手を賀陽へ向け、思いっきり法力を解放する。
放たれた法力が光の奔流となって、その身体を弾き飛ばした。
銃とともに地面を転がっていく。
「お前、何者だ……。まぁ、いい。目的は達した。お前らに構っている暇はないんだよっ!」
立ち上がった賀陽が、印を結んで呪文を唱える。
大地が破裂したように土と雨とが舞い上がった。
辺りを暗い影が覆いつくす。
土埃が晴れた後に、賀陽の姿は消えていた。
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