第五十三話/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「嘉治を守れ!」
その声に真っ先に反応したのは、みさきだった。
嘉治の背に立ちはだかったその身体を、銀色の輝きが襲う。
一筋はみさきの右掌が掴んだ。もう一筋はみさきの左肩に突き刺さる。
それは短刀に見えた。
血が噴き出し、辺りを赤く染める。
「みさき!」
法力放つべく構えた瞬間、
「お前は祭祀を続けろ! 私が行く!」
七瀬が一足飛びでみさきの前へ立ち塞がった。
「何者だ!」
短刀の持ち主が潜む森に対し、七瀬が雄叫びを上げる。
「おいおい、聞いてない奴らがいるぞ。宮司と鬼だけじゃないのか」
姿を現したのは、阿吽の仁王のような大男二人を従えた初老の小男だった。
「何のためにこんな事をする?」
「お前が知る必要はねぇんだよ!」
そう言うと、大柄の男たちが七瀬へ襲いかかった。
「ひれ伏せぇ!」
七瀬が裂帛の気合いを放つと、大地が震え、空気が凍る。
圧倒的な霊力が圧し掛かり、男たちは耐えかねて膝をついた。
動きが止まった大柄の男にみさきが組みつくと、腕を捻り上げ拘束する。
背後からもう一人の大男がみさきに掴みかかった。
一度拘束を解き、跳び躱す。
交錯するように、七瀬が大男に掌を向けた。
呪文を唱えると、意識が消え、前のめりに倒れこむ。
みさきは再びもう一方の大男へ飛びかかり、組み合った。
鬼の力を解放したみさきと張り合えるとは、常人ではない。
駆け出した七瀬が頭目らしき小男に迫る。
「化け物が!」
男は懐から取り出したそれを七瀬に向けた。
「銃だ! 伏せろ!」
弾ける音が森に響く。
七瀬は宙を舞い、間一髪で躱した。
なおも執拗に銃口が狙い続ける。
その時、七瀬を追い越すように一閃が疾り、小男の腕に突き刺さった。
「ぐぉぉぉぉお」
叫び声をあげ、銃を取り落とす。
狙撃の主は伽耶だった。
祭壇の蔭では今も長弓を引き絞っている。
七瀬は一直線に小男へ迫ると、その顎を思いっきり蹴り上げた。
小男は泡を吹いて倒れこむ。
銃を取り上げようと近づく七瀬だが、その動きがピタリと止まった。
木の上を睨みつけて叫ぶ。
「お前が黒幕か! 下りてこい!」
音もなく下りてきたのは、小柄な黒装束だった。
黒く不気味な仮面が顔を覆っている。
「こんな所で摩法少女と会えるとはね」
その声は少年のようだ。
伽耶が矢を放つが、黒装束は短刀で容易く弾いた。
その短刀を七瀬へ向かって投げると、姿を消す。
七瀬にはその姿が見えているようだった。
虚空を斬ると黒装束が再び姿を現す。
「お前も摩法使いか」
「お前以上の、な」
「抜かせぇ!」
お互い刀で撃ち合う。
チリチリと鋼の弾きあう音が響いた。
七瀬は相手を間合いに入れないよう距離を取り、長刀の利を上手く使って黒装束を追い込んでいく。
黒装束は手数の多さで応戦していた。
不意に七瀬が大きく間合いを取ると、霊符を繰り出し呪文を唱える。
黒装束が一瞬で炎に覆われた。
七瀬は大きく一歩を踏み出す。
手首を捻り、胸元目がけて一気に霊刀を叩き込んだ。
勝負がついたと思ったその瞬間、七瀬の刀が虚空を切る。
そこにあったのは炎を上げる黒装束の外套だけだった。
隙だらけになった七瀬の背後に回り込み、襲いかかる。
その瞬間、またも、黒装束の身体が炎に包まれた。
「お前の動きは読んでいる」
七瀬は背中に貼った霊符から炎を顕現させていた。
燃え上がった黒装束を一気に踵を返した七瀬の刀が襲う。
間一髪で一刀を躱し、大きく間合いを取った。
「さすがは刑部七瀬……」
鬱々とした声が仮面の奥から響いた。
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