第五十二話/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「予想より瘴気が酷い……私は注連縄を見て回ってくる」
七瀬は池を囲う注連縄に霊符を貼り始める。
程なくして、鳥居から転がり出るように嘉治が駆け出してきた。
「刑部さん!」
「どうした⁉」
七瀬が駆け寄る。
「祭壇を建てたのですが、神籬も神饌もすぐに朽ちるのです」
「そんな事あるはずない。ちゃんと結界を確保しているのか」
「それはもちろん。斎竹を建てて、縄と浅黄幕で囲っています」
「であれば、適正地ではない。場所を変えた方がいいだろう。それと、そうなる原因があるはずだ。神が神事を拒むなんてよっぽどの状況だぞ。とにかく、祭壇を見せてもらおう」
鳥居をくぐる手前で七瀬が足を止める。
「お前、瘴気にあてられて調子が悪いのだろう。みさきと一緒に鳥居の外で待っていろ」
よく見ると、伽耶の額には玉の汗が浮かんでいた。
嘉治の後を七瀬が追う。二人に続いて鳥居をくぐった。
神域へ入ると一段と静かだった。
静かすぎて耳鳴りが頭の奥に響く。
「ここにはもう神はいない。怒りも、悲しみも感じない」
浅黄幕で覆われた祭壇は静かに佇んでいた。
七瀬は祭壇の四隅を巡り、異常がないかを検める。
目を落とした先には、盛り塩が黒くくすみ、崩れ落ちていた。
「龍神は既に死んでいる。もしくはここにはいない……いや、瘴気の中にかすかな気配があるが……」
七瀬は鞄から霊符を取り出すと、池へ浮かべた。
霊符はしばらく浮いていたが、突然枯葉のように朽ちてしまった。
「瘴気が強すぎる……」
七瀬は再び鞄から霊符と筆を取り出した。
何も書かれていない霊符にさらさらと文字とも記号ともつかないものを描き始める。
素早く、なおかつ丁寧に描き終えると、また池へ浮かべた。
今度は朽ちることなく、池の奥へと流れていく。
池の中ほどまで来ると、霊符が光り輝き、すぐに消え去った。
「嘉治、祭壇を鳥居の外に建て直そう」
そう言うと、七瀬は踵を返した。
鳥居まで戻ると、鳥居の柱と祠に霊符を貼り始める。
その後、言う通りに、祭壇を鳥居の前へ建て直した。
「龍神はいる。瘴気の中に取り込まれている。空海、お前の力を借りるぞ。龍神はかなり消耗して弱っている。顕現したら、お前の法力を注いでくれ。少しずつ、ゆっくりと」
「わかった」
「祈祷を始めてくれ」
「神饌はどうしましょう」
嘉治はオロオロとして、七瀬の顔色を窺っている。
「今はいい。猶予がない、急げ!」
そう指示すると、七瀬は祭壇の周りを囲うように大きく、地面に円陣を描き始めた。
嘉治は大麻を手に取り、祝詞を奏上する。
「伽耶、神楽鈴だ。八方を浄めよ。陣には入るなよ」
描き終えると、円陣の内が光で満たされていく。
鈴の音に呼応するように、次第に激しさを増して輝いた。
祭壇に淡く、白い影が浮かぶ。
蛇ほどの大きさだが、その姿は明らかに龍であった。
異様なのは、その尾に鎖が繋がれ、池の中へ延々と続いている。
「なんなんだ、あの鎖は……」
七瀬は苦々しく呟いた。
「空海、陣に入り法力を注いでくれ」
「ああ、わかった」
陣へ入ると左手で印を結び、右手で神体に触れる。
法力を少しずつ解放し、光の中へと注ぎ込んだ。
七瀬は訝しげに鎖へ近づき、辿っていく。
その瞬間、七瀬の表情が変わった。
霊刀へ手を伸ばし、鞘から一気に引き抜く。
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