第五十一話/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
約束の時間には少し早かったが、鬼ノ城を出発した。
車内の空気はピリピリと張りつめている。
七瀬は何か思案しているようで、終始無言だった。
吉備津神社は備中国の一宮である。
早朝といえども、ちらほらと参拝者の姿が見られた。
居宅の前に車が停められている。
その隣で伽耶が大きく手を振って迎えてくれた。
「朝早くから、ごめんね」
「伽耶、その恰好は――」
みさきが驚きに息を呑む。
伽耶は白い小袖に緋色の袴という出で立ちに身を包んでいた。
「今日は祭祀のお手伝いもするからね。格好だけでもちゃんとしておかないと」
すこし照れたように伽耶は言い訳した。
「とっても似合っていますよ! ねえ、真魚?」
「ああ。神聖な雰囲気だな」
伽耶はその場でくるっと一回転してみせると、恥ずかしそうに袖で口元を覆った。
「遊びじゃないんだ! さっさと行くぞ!」
七瀬が声を荒らげる。
「はっ! はひっ!」
七瀬の叱責に伽耶が背筋を正した。
「ったく! コスプレ会場にでも行くのか、お前は」
「でも、七瀬も似合いそうですね。ねえ、真魚?」
「ああ。似合うだろうな」
「なっ!」
七瀬の顔が真っ赤に燃える。
「何を考えてる! 私なんか……」
「もう一着あるけど、どうする?」
伽耶がすり寄るように囁いた。
「着ない! 着ない! 着ない!」
「なんか動揺してない? まさか、本当は……」
「私は動きやすい服が好きなんだ! 巫女の服なんて、絶対着ないぞ!」
そう言うと、車に乗り込んでしまった。
窓を開けて、早くしろ! と叫んでいる。
伽耶は嘉治の車へ乗り込んだ。
その車を追いかけるように北上する。
吉備津神社の北側に面した山の中腹に龍王池はある。
山道に入る直前、七瀬の表情が険しさを増した。
「嫌な感じがする……」
広かった車道が、池に近づくにつれて次第に狭くなっていく。
車一台がやっと通れるかという悪路だった。
凸凹の路面に揺さぶられ、車が上下する。
周囲は生い茂った木々に覆われていた。
雨水を帯びてぬかるんだ泥を撒き散らしながら進む。
しばらく走ると、突然視界が開けた。
車から降りた伽耶が駆け寄ってくる。
「車で行けるのはここまでだから、あとは歩いて行くって」
嘉治の車の後ろに停車すると、歩いて池までの道のりを進み始める。
祭器具の積まれた荷車をみさきが曳き、後ろから嘉治が押していた。
山道はすぐに木々で覆われ、薄暗くなる。
茂みに遮られた雨粒が水滴となって落ち、地面に敷きつめられた枯れ葉を叩いていた。
「気配がない。異様に静かすぎる」
七瀬が神妙な面持ちで呟く。
そう言われれば、落ち葉を踏みしめる音と雨音以外には、鳥の声も風の音も聞こえない。
外界から隔絶されたような雰囲気だった。
しばらく歩くと、池のほとりへ出る。
池は他と一線を画すように、細い注連縄で囲われていた。
「神域に瘴気が満ちている。今にも溢れそうだ」
神域というには相応しくない荒涼とした岩土と、茶色く濁った池が広がっていた。
池には赤黒い鳥居と古びた祠が建てられているのみである。
鳥居の脇に荷車を止めると、嘉治と伽耶が手際よく祭祀の準備に取りかかった。
皆と同じように鳥居をくぐろうとするみさきを、七瀬が制止した。
「みさき、お前はここで待っていろ。神域に踏み込むと何があるかわからない」
みさきは黙って頷くと、少し離れて祭壇が組み上がるのを眺めていた。
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