第五十話/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
どうやら雨が降っているらしい。
スマホのアラームよりも早く、水音で目が覚めた。
窓から外を見てみると、しとしとと小雨が降っている。
居間へ出ると、みさきが既に起きていた。
「おはようございます、真魚」
「ああ、おはよう」
「今日は、畑はお休みです。雨が降っていますから」
「ああ、儂も雨音で起きたんだ」
「伽耶から連絡がありまして、予定通り吉備津神社へ来てほしい、との事です」
「わかった」
「大丈夫でしょうか……」
「七瀬もいるし、大丈夫だろう」
「私に頼られても困るぞ」
いつの間にか七瀬がソファに掛けていた。
「まずは瘴気を抑えることだ。それは宮司の力次第だからな」
それと、と七瀬は続ける。
「みさき、お前はあまり近づくな。純粋な神たるお前は瘴気にあてられ易い。不用意に近づくと穢れをもらうぞ」
「あら、私の心配とは珍しいこともあるものですね。雨が降っているのも納得です」
「余計な面倒を避けたいからだ。龍神と空海が同じ空間にいるだけでも面倒なのに、鬼まで相手することになっては手の打ちようがない」
「わかりました。私は後ろに控えておくことにします」
差し出された温かいお茶を、七瀬は一口飲んだ。
「儂には忠告はないのか」
「そうだな、余計なことをするな」
「かなり端的な忠告だな」
「お前の戒律である不殺生を破る可能性がある。その時は言い争いをしている暇がない。足を引っ張らないように、他の二人を守っておけ」
「人の生き方をとやかく言うつもりはない。だが、そんな業を背負い込むやり方では自分自身を不幸へ導くぞ。お前の実力なら壊さずとも救うことができるのではないか?」
「今更生き方を変えることはできない」
「したくないとは言わないんだな。できないことはできるようにすればいい」
「言葉遊びをしているんじゃないんだ。とにかく、余計なことはするな。それだけだ」
そう言うと、そっぽを向いた。
「気が立っているようだ」
「まぁまぁ、ご飯を食べたら機嫌も良くなりますよ。朝ごはんにしましょう」
そう言って、みさきは大盛りのご飯を七瀬の前に置いた。
「おかわりもありますから」
七瀬は碗に口をつけると、並べられた総菜を駆使して一気に白米を減らしていく。
その凄まじい食欲に目を奪われていると、茶碗は空になっていた。
七瀬はみさきの方へ茶碗を突き出すと、お代わりを要求するように揺らした。
「あー、はいはい、お代わりですね。昨日は、一応遠慮していたんですね」
「七瀬でも遠慮を知っているのか⁉」
「私だって多少の遠慮はするわい!」
みさきから白米の盛られた茶碗を受け取ると、速度を落とすことなく平らげる。
気持ちいいくらい豪快な食べっぷりだった。
「足りましたか?」
「……六分目くらいかな」
「まだ食べられるんですか! パンを焼きましょうか?」
七瀬は無言で頷いた。
数分後には目の前に二枚の食パンと目玉焼きが現れた。
先ほどまでとは打って変わって、ゆっくりとパンを食べ始める。
「パンはゆっくり食べるんだな」
「食パンはその方が美味しく感じる。白米はのど越し」
「白米もよく噛んで食べて下さい……」
みさきが呆れるように言った。
「みさきは、母親みたいだな」
「なっ! 誰が母親ですか!」
冗談のつもりで茶々を入れてみるが、七瀬の反応は予測と違っていた。
「そっか。お母さんってこんな感じなのかな……」
その言葉からは何の感情も読み取れない。
七瀬は小さく、ご馳走さまと呟いた。
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