第四十九話/三月二十三日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
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「真魚! 真魚!」
「ああ、みさき。時間か」
時計を見ると、十七時を少し回っている。
「帰りましょう。あと隣の人は起こすと悪いので置いて行きましょう」
隣を見ると、七瀬が数時間前と同じ姿勢のまま机に突っ伏していた。
持ってきた本を書棚へ戻し、そのまま図書館を後にする。
ガラス張りの玄関を出てしばらく歩いた辺りで、七瀬が走って追いかけてきた。
「おい! こら! 待て!」
「ああ、起きたんですね」
「なにを置いて帰ろうとしてるんだ!」
「やっぱりちゃんと起きるんですね」
みさきは素直に感心している。
「言ったろう。気配には敏感なんだ。皇典講研でも一、二を争う程にな」
「それだけ敏感だと気が休まらんだろう」
「お前が顕現した時の事は思い出したくないよ」
七瀬はその瞬間に引き戻されたように、ぶるっと身体を震わせた。
「わざとやったわけではないぞ。だが、すまなかったな。美緒に代わってお詫びするよ」
「私はこの力を理解できるが、法力にあてられて体調を崩す者もいるんだ。信仰を忘れてしまったこの世界では、尋常でない力が人へ不幸を呼び込むことを肝に銘じておけ」
「儂のような者には生きづらい世の中だのう」
車へ乗り込むと、鬼ノ城を指して走り出した。
薄闇に煌めく車の灯が目を眩ませる。
「ちょうど帰宅時間ですから、混んでいますね」
「お腹減ったー」
七瀬が気の抜けた声を捻りだした。
「あなた、お昼にあれだけ食べておいて、そんなに空腹なんですか? 燃費が悪いですね」
「育ち盛りなもんで」
「胃下垂の間違いでしょう」
そうは言いながらも、みさきは飴を二個取り出すと七瀬の手に握らせた。
「飴か……」
「あからさまに残念そうに言わないで下さい。いらないなら返してもらいますよ」
みさきが返せとばかりに手を伸ばす。
七瀬は取られまいとそっぽを向いた。
「ありがとう……お婆ちゃん」
「誰がお婆ちゃんですか!」
「飴ちゃんを手に握らせるなんて、お婆ちゃんだろ」
そう言って飴玉を頬張った。
二人はキーキーと騒いでいるが、昨日のお通夜のように静まりかえった車内よりはいいか、と前向きに考えた。
車は山道へ差しかかり、見慣れた道を登っていく。
家へ到着すると、辺りは真っ暗になっていた。
「いやー、よく寝た」
「図書館に行ってその感想はどうなんだ……」
確かによく寝てはいたが。
みさきはエプロンを着けると、台所で料理を始める。
夕食を食べると、風呂に入って床に就いた。
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