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第四十八話/三月二十三日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 図書館を出ると、風に冷たさを感じる。

 来た時には晴れていた空が薄雲に覆われていた。


「雨が降らないといいが……」


「この様子だと降るかもしれませんね」


「祭祀の準備は順調に進んでいるだろうか」


「予定通りのようです。朝八時に吉備津神社へ来るよう、伽耶から連絡が来ていました」


 歩きながら話していると、みさきがお気に入りだという店に着いた。

 木製の看板に木枠の扉、ガラス張りで店内が透けて見える。

 店の前にして、既に甘い香りが漂っていた。


「これがパン屋か」


「ええ。真魚は初めてのパンですね」


「本で見た事はあるが、食べるのは初めてだな」


 ガラス戸を引いて中へ入ると、更に香ばしく甘い香りに支配されている。


「これがパンか?」


「それはクッキーですね。こちらに並んでいるのがパンです」


「これか。思ったより大きいな」


「真魚はどれがいいですか?」


「どれと言われても違いが判らない」


「しょっぱい総菜パンと甘い菓子パンがありますが」


「しょっぱいのかな」


「私は甘いの。メロンパン」

 七瀬が割り込んでくる。


「あなたはお給料を貰っているらしいじゃないですか。自分で好きなように買って下さい」


「えー、ケチだな」


 みさきは無視するとパンをいくつかとクッキーを盆に載せて、店員へ渡した。

 店の看板と同じ模様の入った紙袋に詰めてくれる。

 七瀬はメロンパンというのを買うと、紙袋を大事そうに胸へ抱えた。

 店を出て、すぐ傍の公園で食べることにする。

 岩造りの泉を木々の緑が囲っており、静謐せいひつな雰囲気が漂っていた。


「うまい! ここのメロンパンは最高だ!」

 七瀬が叫ぶ。


 パンは香ばしくて美味しかった。

 みさきはクッキーを摘まんでいる。


「読書の方は進んでいるのですか?」


「ああ。児童書はほぼ読み終えた。次は一階だな」


「えっ、もう読み終えたんですか?」


「読書中の空海は鬼気迫るものがあるぞ。本当に読んでるのか、ってくらいに速い」

 早くもメロンパンを食べ終えた七瀬が、指先を舐め取っている。


「絵本や物語以外だけどな。だいぶ、この世界の物や仕組みが分かってきたぞ。まさか、人間が月まで行ったとは驚いた。それと、飛行機と新幹線な。これは乗ってみたい」


「子供心溢れる感想ですね」


「いやいや、児童書と言えども侮れん。紙を四十三回折り曲げると、月まで届くらしいぞ。帰ったら、やってみよう」


「知識が雑学に寄っていますね……」


 パンを食べ終え、空腹が満たされると少しほうけた。

 目の前の泉に風が波紋を作っている。

 陽がかげると、急に寒さを感じた。

 冷涼な空気を大きく吸い込むと、頭の中がハッキリする。

 膝を一つ叩いて立ち上がり、来た道をなぞるように図書館へ戻った。


「では、私は仕事に戻りますね。五時くらいには、また迎えに来ますので」

 みさきは車へ乗りこむと手を振り、去っていった。


「よし、もうひと眠りするか」


「いや、寝るなよ」


 図書館へ入ると、今度は一階に並んだ書棚を流し見る。

 さて、何から読もうか。近くにいた係の女性に話しかけた。


「すまぬが、この世界の事を理解するにはどの本がいいかな」


「この世界の事ですか?」

 あからさまに困惑している。


「国の成り立ちや、仕組みについて知りたいんだが」


「そうですね、うーん、歴史や社会科学でしょうか」


 そういうと、関連書の棚に案内してくれた。

 礼を言って、棚に目を落とす。

 ここは社会科学という分類の棚らしい。

 めぼしい本をいくつか手に取ると、読書机に陣取る。

 しばらくすると、七瀬が数冊の本を持って隣に座った。


「まさか司書の人に話しかけるとは」


「話しかけちゃいかんのか」


「なんて言ったんだ?」


「この世界の事を理解できる本ありますか、って」

 七瀬が噴き出した。


「で、どう言われたの?」


「なんか苦笑いされて、この辺の本を紹介してくれた」


 本の表紙を見せたが、笑いを堪えている七瀬は見ていなかったので放っておいて読書へ戻る。

 しばらくすると、健やかな寝息が隣から聞こえてきた。


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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感想はもちろん、

舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。

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