第五十五話【全六十七話】/三月二十四日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
神体を嘉治に託し、七瀬の元へと駆け寄る。
その身体は血で濡れていた。
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ……!
薬師如来の真言を唱えつつ、七瀬の身体を抱き起こす。
目を開けない。
「邪魔ですっ!」
組み合っていた大男を渾身の一撃で昏倒させて、みさきが駆け寄ってきた。
「七瀬! ななせーーー!」
七瀬に呼びかけるも反応はない。
一心不乱に法力を注ぎ込む。
七瀬が薄く目を開く。
しかし、その瞳に生気はない。
手を取り、覗き込むみさきの顔を見て、
お母さん……
小さく呟いた。
虚ろな瞳から一筋涙を流すと、再び目を閉じる。
みさきの嗚咽が響き渡った。
傷は塞がっているはずだ! 何故⁉
傷口からは煙のように瘴気が立ち昇っていた。
何か仕掛けられているのか――
カサリ
――黒装束⁉
葉を踏む音に顔を上げる。
近江だった。
駆け寄ってくると、七瀬の傍に崩れ落ちる。
「お嬢さま……」
両手で包み込むように握った七瀬の手が、力なくだらりとずり落ちた。
「うわぁぁぁぁあー」
近江は天を仰いで咆哮した。
爆音が響き渡る。
図鑑でしか見たことのない乗り物が、木々の間を縫って飛んでくる。
ああ、これがヘリコプターか。
これは、ドクターヘリというやつだな、などと他人事のように考えていた。
直上まで来ると前進をやめ、投げ落とされた縄を伝って隊員が降りてくる。
いくつかの処置を施すと、固定された七瀬の身体は機内へと収容されていった。
ドクターヘリが飛び去ると、辺りは再び静寂に包まれる。
祭壇へ戻るも、龍神の神体は姿を消していた。
その気配はどこにもない。
「何が起こっているのだ!」
奴らの狙いはなんだ?
この池を瘴気で満たす事か。龍神を殺す事か。
そんな事をして何の意味が……。
池を見てみると、今にも溢れそうだった瘴気が薄れていた。
「おいっ! 起きろ!」
転がっていた小男を揺さぶり起こす。
「ぇ……あ……」
意識が朦朧としているようだ。
「げほっ、げっほ!」
襟首を捻り上げて問い質す。
「お前たちの目的を言えっ! さもなくば……」
振り上げた拳が法力で光り輝く。
「俺は何も知らねぇ! 本当だ! 雇われただけなんだ!」
光り輝く拳で小男の頭と目を覆うように掴む。
「あ、ぁ、あ、お、俺が知っているのは、吉備津神社を襲うって事だけだ! 本当にそれだけなんだ!」
吉備津神社⁉
拳の法力が弾け、その衝撃に小男は泡を吹き、再び気を失った。
「そうか……この瘴気は地脈を通じて、吉備津神社の神域を冒すために用意されたのか!」
「――ッ⁉」
伽耶と嘉治が絶句する。
未だ放心状態のみさきへ駆け寄ると、その肩を揺さぶった。
「みさき、行こう! 吉備津神社が危ない!」
「ななせ……私……」
掌にベッタリと塗られた血を見つめるみさき。
その身体はガクガクと震えている。
「しっかりしろ! 土岐子や那珂彦が危ないんだ!」
みさきの頬を張る。
「真魚……、私……」
「みさき、お願い! お婆ちゃんとお兄ちゃんを助けて!」
伽耶が抱きしめて叫ぶ。
震える足を、震える両手で押さえつけたみさきが、ふらつきながらも立ち上がった。
「……行きましょう」
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