第五話/三月二十一日/真魚①
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
長い長い夢を見ていた。
瞼を開くと、一筋の涙が頬を伝う。
ふあーあ、あくびが出る。
何の涙かわからなくなったので、深く考えるのはやめた。
「ふあー、よく寝…………寝てたわけじゃないぞ、深い瞑想だった」
誰に言い訳するでもなく、独り言つ。
「ここは……どこだ?」
目の前には立派な大日如来の像。
蝋燭の薄明かりが辺りを揺蕩うように照らしている。
理解不能な状況に反して、心は穏やかだった。
周囲を見回す。
少女がいた。
黒い髪を二つに結わえ、茶けの瞳でまっすぐにこちらを見つめている。
軽く手招きしつつ、声をかけた。
「もし、すまんが、ここは……」
自身から吐き出された声に違和感を覚える。見るとあちらの少女も手招きしていた。
「真似するでなーい!」
手を伸ばすが、少女を捕らえる事は叶わず、指に痛みが走る。
鏡だ。
「なんと美しい鏡!」
――って、そんなことはどうでもいい!
天地が逆転するように、目が回る。一気に混乱してきた。
よく見るとおかしい。
最期に見た風景と何もかもが違う。違いすぎる。
手を開いたり閉じたりしてみる。透き通るように白い指が思い通りに動いてしまった。
声だって少女そのものだ。
「儂は少女に転生したというのか!」
狼狽し、周囲をキョロキョロと見回す。
目の前に見覚えのあるものが横たわっていた。
錫杖
古びてはいるが、見覚えのある錫杖。間違いない。
手を伸ばすと、勢い余って床へ転がった。
全く見覚えのないものの中で出会った愛着のある錫杖に、思わず縋りついてしまう。
刹那、一つの可能性が閃いた。
「五〇億余年が経ったのか……」
それなら合点がいく。
となると……
「弥勒慈尊はどちらにおわすのか?」
こんなことをしている場合ではない。部屋から飛び出ると、何かとぶつかった。
弥勒慈尊⁉
じゃない! 一人の小柄な媼が尻もちをついて転がっている。
「美緒! 気でも触れたかえ!」
怒鳴りつけられた。ふと、媼の様子が変わり、目を見開く。
「美緒、ではないね。あなたはどなたかな」
「我が名は」
「遍照金剛、空海である」
その瞬間、大日如来の片鱗が溢れ出し、身体じゅうから金色の光が洩れる。
その姿に圧倒された媼が膝から崩れ落ちた。
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