第四十六話/三月二十三日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「朝ご飯、できましたよ。二人とも、寒くないんですか」
みさきが玄関から出てくると、室内に入るよう促した。
居間へ入ると、その暖かさにほっとする。
長机の上には朝食が用意されていた。
「頂きます」
七瀬はまず碗に口をつけた。
「うっ……⁉」
「お口に合いませんか?」
「いや、なかなかやるじゃないか」
素直に美味しいと言えばいいのに。
みさきも言葉足らずな讃辞に顔を綻ばせる。
みさきの作るご飯は美味しい。丹精を込めた野菜から溢れる滋味が身体に染みる。
食べる速度の速さからも、七瀬のお気に召したようだ。
一気に平らげると、おずおずと手を合わせ、ご馳走さまと囁いた。
「きょ、今日の予定はどうなっている?」
誤魔化すように七瀬が口を開く。
みさきは湯気が立ち上るお茶を差し出した。
「私は昨日と同じように仕事へ行きます。真魚は吉備津神社に顔を出しますか?」
「いや、行っても邪魔になるだけだろう。準備は土岐子たちに任せよう。儂は昨日と同じように、図書館へ行きたいのだが。昨日は途中で誰かさんに邪魔されてしまったからな」
ジロっと、七瀬の方をねめつける。
「それなら、ついていこうかな。つきまとうのが私の仕事だし」
なんて嫌な仕事なんだ。
「では、お弁当を二つ作りますね」
みさきは食器とともに、台所へ引っ込んでいった。
「七瀬、いいものを見せてやろう」
「いいもの……?」
全く期待していない眼だ。
リモコンを操作する。だいぶ手馴れてきた。
「ん、これは、時代劇か。やはり中身が中身だけに、おっさん臭いな」
「好きじゃないのか? お前のように刀を持った奴がうようよ出てくるぞ」
「一緒にするな!」
今回は、鉄砲の利権を独占すべく問屋とお役人が悪だくみする、という内容だった。
「鉄砲ってなんだ?」
「ほら、よく見てろ」
お役人の構えた筒が火を噴き、巨木に大穴をあけた。
「銃ともいうが、ああやって火薬で弾を飛ばす武器だ」
「恐ろしい武器を作るもんじゃのう」
当初、気だるげに見ていた七瀬だったが、村娘が狙われると、
「年端もいかない娘を……下衆が!」
机を指でトントンと叩きながら、テレビに向かって毒ついていた。
村娘に助けが来ると、立ち上がって拳を握りしめている。
息をつかせぬ展開のまま、物語は大団円を迎えた。
「だいぶ熱心に見ていたようだが」
「そんな事はない! でも、飛猿は格好良かった、かな……」
時代劇の話をできる仲間が、また一人増えた。
「お弁当の準備ができましたよ。そろそろ出かけましょうか」
銘々に準備を整えると、車に乗り込んで図書館へ向かう。
布袋で包んではいるものの、当然の如く刀を携行している七瀬。
その姿を見たみさきが話しかけた。
「刀は手放さないんですね……捕まっても知りませんよ? それにしても、昨日と同じ格好じゃないですか。着替えを持ってこなかったんですか?」
「いつも制服なんだ。動きやすいし、選ぶのも面倒だし……」
「ええっ! 勿体ない! 顔だけは整っているんですから、もっとお洒落しないと」
「顔だけはって……どういう意味だ」
「明るい色の服も似合うと思いますよ」
「い、いいよ、そんなの……服なんて、自分で買いに行かないし……」
七瀬は窓の外に視線を移すと、モゴモゴと口籠った。
「部屋着はどうしているんです?」
「近江が適当に買ってくる」
「ええー⁉ 年頃の女の子がそんな……」
「服屋で服を選んでる時の、あのソワソワ感が嫌なんだ!」
「それが楽しいんですよ。伽耶が詳しいので、今度、一緒に買いに行きましょう! ね!そうしましょう!」
「わかった、わかった、また今度な!」
七瀬は窓の外から視線を外さず、ぶっきらぼうに答えた。
その頬には朱が差している。
「約束ですよ?」
みさきは諭すように念押した。
程なくして、昨日を再現するように図書館へ車が停まる。
「根を詰めないで、ちゃんと休憩を取って下さいね」
そう言って駐車場で車を回すと、みさきは仕事場へ向かっていった。
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