第四十五話/三月二十三日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
疲れ切っていたのか、床に就くとすぐに意識が沈んでいった。
日課のように美緒へ呼びかけたが、当然の如く返事はない。
ピピピピピピピ……
翌朝、みさきに設定してもらったスマホのアラーム音で目を覚ました。
起き上がると歯を磨き、顔を洗う。
着替えて居間へ出ると、みさきは既に起きていた。
「おはようございます、真魚。疲れていないですか?」
「ああ、おはよう。よく眠れた。大丈夫だ」
坂の上の畑へ向かう。
車から降りると、畑を囲う柵に寄りかかって誰かが立っていた。
「おはよう、七瀬」
七瀬は寝間着に上着を羽織り、手には刀を握りしめている。
「朝から何をこそこそしているのかと思えば、畑か」
「起きたのか」
「気配には敏感なんでね」
火事でも起きないであろう伽耶とは大違いだ。
「どうやって来たんだ?」
「私の膂力をもってすれば、先回りなど造作もない」
「力が有り余っているなら、どうだ、お前も手伝わんか?」
「なんで私が農作業なんか……」
そう言うと七瀬は柵の上へ立ち、刀の素振りを始めた。
「真魚、昨日と同じように水やりをして頂けますか?」
「わかった」
水やりは好きだ。
大地に触れている実感がある。
土、虫、草、風、全てと水を通して繋がっていく。
農業とは生命への祈り、天地への畏敬、作業の一つ一つが仏法と似通っている。
脇見すると、相変わらず刀を振っていた七瀬が振り返り、目が合った。
勘のいい子だ。
この娘が生命と向き合うには農業がいいかもしれない。そんな事を思った。
「水やり、終わったぞ」
完了を報告する。
みさきは飽きることなく耕地を広げていた。
「ありがとうございます。もう少し暖かくなったら、種を蒔きましょう。食べ手が増えましたから、去年よりもたくさん……。今日はこれくらいにして、朝ごはんにしますか」
そう言って微笑みを浮かべたみさきは、鋤と鍬を取り上げて車へ向かう。
「朝ごはんにしますから、帰りましょう。車に乗りますか?」
声をかけられた七瀬は柵から跳ね上がると、見事に車の荷台へ着地した。
「ここにする」
「落ちないように、しっかり掴まっていて下さいよ」
車へ乗り込むと、ゆっくり坂を下っていく。
車が停まるや否や、七瀬は荷台から飛び降り、庭へ歩を進めた。
そして、眼下に広がる絶景に息を呑む。
「贅沢な景色だ……」
小さく呟いた。
吉備の平野に陽が差し始める。
大地に反射した光が真珠のように淡く煌めいていた。
薫風が霞みを吹き払い、遠景の更に奥まで澄み渡っている。
「瀬戸内海の向こうに見えるのは屋島だな。源平の古戦場だ」
平野の先に満ちる海が今にも零れそうに輝き、それを押し留めるように島々が並んでいる。
燦燦と照らす朝陽に引き延ばされた影が、稜線と海岸線を曖昧にさせた。
まるで天地が逆さになったような錯覚を覚える。
しばらく二人並んで眺めていた。
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