第四十四話/三月二十二日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「安心しろ。近江は本家に帰すから」
ぐったりして頭を抱えるみさきの様子に、さすがの七瀬も不憫に思ったのか、ぼそっと呟く。
みさきは顔を上げると、輝く笑顔でうんうんと頷いた。
「えっ⁉ 私は本家に戻るのですか?」
みさきと対極に、今度は近江の表情が曇る。七瀬に詰め寄り、懇願した。
「お嬢様のお世話はどうするのです! どうか私も置いて下さい!」
「近江、ここにいるとお前に危険が及ぶ可能性がある。それに、本家に帰って情報を集めて送ってほしいのだ」
「そうですか。わかりました……」
近江はうなだれながらも首肯する。
七瀬の本心はわからない。しかし、こういうはっきりとした物言いは頼りになる。
「では、最後に、お食事を作らせて下さい!」
「わかった。とびきりを頼むぞ」
七瀬の言葉に近江は立ち上がると、そそくさと台所へ入っていった。
「いや、それは家主の私に聞いて下さい」
もちろんみさきの意向は聞いていない。
早速、料理の音が聞えてきた。音だけでもその手際の良さが感じられる。
ものの数分で数種類の料理が長机に並んだ。
「ちょっと早すぎませんか?」
みさきが驚きの声を上げる。
「あらかじめ仕込んでおきましたので」
「台所を勝手に使っていたという事ですね……」
「はい! その通りです!」
近江に悪びれる様子は全くない。
「いただきます」
料理に箸をつける。う、う、
「うまい!」
「ありがとうございます!」
近江が満面の笑みを湛えている。
みさきを見ると複雑な表情をしていた。
「おいしい、です……。悔しいですが……」
みさきのご飯も美味しいのだが、近江の料理は別格だった。
みさきのご飯が家庭的である反面、近江の料理は香りや食感、盛り付けまでこだわっているようだった。
「どうだ? 近江の料理は美味しいだろう」
七瀬が鼻高々に言う。
「ああ。行動は異常だが、料理の腕は逸品だな」
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀する。やはり皮肉は効かないらしい。
「ご馳走さまでした」
食事が終わると、近江はささっと食器を下げ、お茶を差し出した。
「侍女がいるなんて、お嬢様なんですね?」
みさきが七瀬へ話しかける。
「二見さんの実家に居候させてもらっているんだ。あの家は昔からの名家でね。本当に良くしてもらっている。近江は元々、二見の家で働いていたんだがな……」
「私は言動に難があるとかでクビになりそうな所を、お嬢様に助けて頂いたんです。私にとっては恩人ですよ」
言動に難があるのはお墨付きのようだ。
どうやら過去を振り返ることはしない主義らしい。
食器を洗い終えた近江は、さてと、と呟き、
「では、私は本家へ戻ります」
そう言って、深々とお辞儀した。
「ああ。気をつけて帰れよ」
七瀬が声をかける。
「ありがとうございます! お嬢様もご壮健で! 皆さま、お嬢様の事をどうぞ宜しくお願い致します」
そういうと、また深々と頭を下げる。
顔を上げると、そそくさと黒塗りに乗り込み、去っていった。
七瀬は車の灯が見えなくなるまで見送っていた。
「では、そろそろ寝ましょうか。布団を敷きますよ」
みさきが七瀬を部屋へと案内する。
昨日、伽耶が泊まっていた部屋だ。
扉を開くと、動きが止まった。
部屋は調度品から壁紙に至るまで完全に模様替えされており、布団も新品かつ豪奢なものに取り換えられている。
「近江が私の好みにしておいてくれたようだな」
七瀬はウンウンと頷き、意気揚々と部屋へ入った。
「私の家なのに……」
みさきは言葉を失い、立ち尽くしていた。
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