第四十三話/三月二十二日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
二見を見送りに外へ出てみると、空の色が変わりつつあった。
「今日はもう遅いですし、解散しましょう。祭器具を用意するのに時間がかかります。明日準備をして、明後日の朝、出発してもらえるかしら」
土岐子はそう言うと、伽耶にいくつか指示を出している。
「では、帰りましょうか」
みさきに続いて七瀬とともに車へ乗り込んだ。
「そうでした! こいつも一緒でした!」
「乗り心地の悪い車だが、乗ってやるよ」
七瀬が毒つく。また始まった。
「いい加減、やめんか!」
先が思いやられる。
お通夜のような雰囲気の車内に頭を抱えながら、みさきの家へと向かっていく。
山道を登りきる頃には、辺りは薄暗くなっていた。
家の庭に見慣れない黒塗りの車が横付けされている。
「車が停まっているぞ。誰の車だ?」
「忘れてた!」
見るなり七瀬が声を上げ、車から飛び出すように降りていった。
「近江!」
七瀬が叫ぶと、黒塗りから一人の女性が降りてくる。
「おかえりなさい、お嬢様。お待ちしておりました」
近江と呼ばれた女性は深々とお辞儀した。
「あなたは誰ですか?」
警戒しているのであろう、みさきの声色は刺々しい。
「私は七瀬様の近侍で近江と申します。あなたが丑寅みさき様ですね」
近江は再び深くお辞儀した。
「そして、そちらが弘法大師、空海様ですね」
近江はくるっと身体を向けると、またも深々とお辞儀した。
「失礼かとは思いましたが、邸内を拝見しまして、異常が無いことは確認しております。どうぞ、ご安心下さい」
「勝手に入ったんですか⁉ どうやって⁉」
「どうやってと言いますと、こうやって」
近江は腰を屈めると、鍵穴をカチャカチャとまさぐる手振りをした。
「いやいやいや、人の家に勝手に入らないで下さい!」
「申し訳ありません! お嬢様の御身に何かありましたらいけませんので……」
近江は深々と頭を下げた。
「主人が非常識だと、近侍も非常識なんですね」
「近江、それでいい。鬼の家なんて、何が仕掛けられているかわからんからな」
またも火花が散る。
「失礼かとは思いましたが、トイレも少し汚れていたので掃除しておきました」
「いやいやいや、失礼ですよ⁉ 失礼かと思いますが~、って言えば何してもいいと思っているんですか!」
「いやー、流石は近江だ」
七瀬がククッと笑いを噛み殺す。破天荒な近江の行動がお気に召したようだ。
「ありがとうございます!」
近江はまたも深々と頭を下げた。
「と、とにかく、立ち話もなんですから、中へどうぞ……って不法侵入した人に言うのもおかしな話ですが……」
みさきは家の中へ入るよう促した。
「鍵はちゃんと閉めておきましたので!」
近江が満面の笑顔で報告する。
「それはどうもご丁寧に……」
みさきの笑顔は引きつっていた。
「疲れた……」
居間に入ると、長椅子にへたり込む。長い一日だった。
「お疲れ様でした」
そう言ってお茶を差し出してきたのは、近江だった。
「我が物顔だな」
「ありがとうございます!」
皮肉は通じないらしい。隣に腰かけた七瀬は、安い茶だ、などと毒ついている。
車庫から戻ってきたみさきは、思うがままに蹂躙される我が家に唖然としていた。
「もう好きにして下さい……」
疲れきった表情のみさきは、力なく腰を下ろした。
「粗茶ですが」
着席したみさきにも茶を差し出すと、近江は侍るように床へ座った。
わざと言ってるのか。みさきはもう何も言わなかった。
お読みいただきありがとうございます。
皆様の応援が、執筆の糧です。
もう少し下へスクロールしていただき、
広告バナー下の「☆☆☆☆☆」を押して評価をお願いします。
感想はもちろん、
舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。




