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第四十二話/三月二十二日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


「大師、少しいいですか?」




 二見に促され、連れ立って庭へ出る。


「折り入って、お願いしたいことがございまして……」


 辺りに人の気配が無いことを確認すると、静かに話しはじめた。


「刑部の腕は確かです。保証します。しかし、お察しの通り、他を思いやる気持ちを持っていません。家庭環境もあり、人に心を開きません。幼くして皇典講研の修練に入ったため、まともに学校へも通っていません。心が未熟なのです。どうか大師のお力で、人間らしい心を育んでやっては頂けないでしょうか」


 その眼光の鋭さはりをひそめている。上司という立場を離れた、二見個人の願いだった。


「それが目的か……。茶番だ。初めから、そのつもりだったようだ。本部に連行するつもりなど、元から無かったのだな」


「ご明察です」


「全てはお主の掌の上ということか。若いのに大人物よ」


「恐縮です」


「儂に何ができるかわからんが……」

 素直な男だ。情に絆される。だが、悪い気はしない。


「縁は異なもの。同じ屋根の下で暮らすんだ。できる限りの事はすると、約束しよう」




 二見とともに部屋へ戻ると、騒々しい声が聞こえてきた。


「だから言った通りになっただろう。最初から私の言う事を聞いておけば良かったんだ」


「私は二見さんに同意したのであって、あなたの意見に従ったわけではありません」

 またやってる。


「懲りないな」

 二見が後ろから七瀬の頭を鷲掴みにする。


「いっっつ! 痛いっ、痛い!」


「学習能力がないのか、お前は」


「すみません! 学習しました! もうしました!」


 よく見ると七瀬の身体が若干、宙に浮いている。

 これは痛い……。

 二見が手を離すと、七瀬は頭を抱えてしゃがみこんだ。


「二見さん、刑部さん、少しよろしいですか?」

 土岐子が神妙な面持ちで二人へ話しかける。


「私たちの管理地で龍王を封じた池があるのですが、少し前から封印が弱まっていまして、瘴気が洩れ出しているのです。我々も何度か再封印を試みたのですが、瘴気にあてられてしまって……。再封印を刑部さんにお願いしたいのですが、いかがでしょうか」


「引き受けましょう」

 七瀬に代わり、二見が即答する。


「えぇーっ! 私がやるんですか⁉」

 時間差で、頭を抱えたままの七瀬が声を上げた。


「どちらにせよ、皇典講研から誰かを派遣することになる案件だ。再封印ならばお前の修練には丁度いいんじゃないか」


「はぁ、わかりました」


「ただ飯食ってるわけにもいかんだろう。この辺りの仕事は優先的にお前へ回してやる」


「人遣いが荒いですね」


「私も行くよ。元々は私の家の仕事だし。それに……」


 唐突に、伽耶が名乗りを上げる。七瀬を横目に見ると、言葉を続けた。


「感知陣ではあなたに後れを取っちゃったし……。私ももっと実戦経験を積んで、成長したい。お父さん、いいでしょ?」


「刑部さんがいいのなら、お願いしたいが」

 嘉治はおずおずと七瀬の顔色を窺う。


「私一人で十分だ。子供のお守りじゃないんだぞ」

 七瀬がぞんざいに突っぱねた。そんな様子を見ていた二見が口を挟む。


「いや、一緒に行ってもらおう。大師にみさきさんもご同行頂けますか?」


「我々もか?」


「そうです。あなたたちはこれから一蓮托生です。チームで動く訓練をしておいた方が、いざという時に対応しやすくなりますから。そうだろ、刑部」

 二見は七瀬をねめつけると、掌を開いたり閉じたりする。


「うっ⁉ 確かに、そういう考えもあるかもしれませんね……」

 七瀬は渋々、了承した。


「安心しました。どうもありがとう」

 嘉治が七瀬に向かって深く頭を下げる。


「一緒に行くだけだ。礼を言われても困る。それにまだ何も成していない」

 七瀬は照れたように、そっぽを向いた。

「い、池とはどのような場所なんだ?」


「池には優鉢羅うはつら龍神が封じられています」


「八大竜王の一柱じゃないか!」


「そうです。既に水は濁りはじめ、瘴気が立ち込めています」


「良くない状況だ。神体がけがれに侵され、禍津神まがつがみとなっているならば……」

 七瀬の表情が一層険しくなる。

「葬らなければならない」


 伽耶は息を呑んだ。さっきまでの勢いがりをひそめ、弱気が頭をもたげ始める。


「私たちの手に負えないんじゃ……二見さんも一緒に行きましょうよ」


「伽耶、しっかりしなさい。これはあなたたちへの試練なのです。皆でよく話し、よく協力して、立ち向かうのです」


 土岐子が諭すように言った。二見は微笑んで、きびすを返す。


「では、私は失礼します。この後、善通寺にも寄らなければいけませんので。刑部、皆さんに迷惑をかけないようにな」


 釘を刺すと、足早に立ち去った。


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。

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