第四十一話/三月二十二日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「これからの事を話し合いましょう」
二見が目の前まで歩を進めると、しっかりと見据えてきた。眼鏡の奥の眼光は鋭い。
「あなたが佐伯美緒……いや、弘法大師、空海殿ですね」
「そうだ」
「刑部の考えている通り、大師の非常識な法力は我々にとって、いやこの世界には不釣り合いであり、脅威なのです。皇典講研の本部までご同行頂けませんか?」
「真魚をどうするつもりなんですか⁉」
みさきが割って入る。
「本部の用意した場所で生活して頂き、共に状況の解決を図ります。多少の制限はかかりますが、概ね自由に生活して頂けます」
それに、と二見は続けた。
「強力な法力を感知した諸勢力が動き出しています。我々の他にも超常現象に通じる組織はありますし、我々に反抗する組織もあります。高野山の御影明かしは静観の構えのようですが……。御身の安全のためにも、我々の本部で過ごして頂く事を強くお勧めします」
「だから言ったじゃん。あんたらは私たちの言う通りにしていればいいの」
七瀬が横やりを入れるが、二見が拳を振り上げると俯いて黙った。
「私は困ります。一二〇〇年ぶりにやっと、再会できたのです。この生活を奪わないで下さい。私が真魚を守ります」
みさきは瞳に涙を溜め、必死に訴える。
「残念ですが、あなた一人でなんとかできる事とは思えません」
二見は首を横に振ると、冷静に言い放った。
「私からもお願いします」
土岐子が立ち上がって、頭を下げる。
「みさきはずっと待っていました。悠久の刻を空海の復活の日まで、ただ一心で」
「私からも、お願い。みさきの気持ちを守ってあげて」
伽耶も声を上げる。
「大師、いかがでしょうか」
改めて決断を促される。
「二見の言う通りにすべきだろう」
みさきと目が合った。今にも泣きだしそうな顔でこちらを見つめている。
「だが、儂は儂を必要としている人を置いては行けぬ」
「ここに残られると?」
「いくら修業を重ねても、なかなか正しい事はできんもんだ」
「わかりました」
二見は大きく息を吐いた。
「こうなる気はしていました。大師のお考えを尊重します。我々の都合を押しつけて、敵に回すのは悪手ですから」
しかし、と二見は続ける。
「監視は必要です。七瀬を監視役として置いていきます。よろしいですね」
「受けざるを得まい」
「四六時中というわけではないのでしょう?」
みさきが露骨な心配を示す。
「我々としては、みさきさんのお家に一緒に住まわせて頂く事が安全かつ安心だと考えています。お願いできませんか?」
「嫌です。私の家は民宿ではないのですよ」
さっきまでのしおらしい様子から一転して、ピシャリと拒否する。
二見はみさきに近づくと、こそこそと耳打ちし始めた。
「小耳に挟んだのですが、みさきさんのお店、お菓子屋さん。鬼すっきり饅頭でしたっけ?」
「鬼どっきり饅頭です!」
「そうそう、鬼どっきり饅頭。資金繰りが厳しいみたいですね。機械も老朽化していて、そろそろ交換が必要だと聞いています」
「なっ……⁉」
「我々であれば、お手伝いできると思うんですよ。刑部の生活費はもちろんお支払いしますし、まとまった数のお菓子を定期的に仕入れられます。機械も伝手がありますから、相談に乗ることができると思いますが」
「それでも……」
「来月から学校へ通うと申請されていましたが、そうなると先立つものが必要ですよね? しかも、大師も通うおつもりだとか。学校に通うとなると色々必要なんですよねぇ。制服とか鞄とか……」
「お受けします……」
みさきはぶつぶつと呟きながら、落ち込んでいた。
「話はまとまりました。では定時報告をお願いしますよ、嘉治さん」
「また書類が増えるのか……」
嘉治の顔色はいつもに増して良くない。みさきと並んで負の波動を放っていた。
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