第四十話/三月二十二日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
微笑み返したみさきは、表情を一転させると、七瀬に詰め寄った。
「真魚も吉備津神社の庇護を既に受けています。ということは、摩法少女さんが四六時中監視する必要はないという事になりますよね」
「いつでも首を刎ねられる鬼とは訳が違う。美緒も常にマークしていたからこそ、これだけ迅速に対応できたのだ。強力な法力を持つ空海が転生したとなれば何が起こるかわからない。何かあった場合は刺し違えてでも消えてもらう」
「そんなことはありませんし、させません!」
「四六時中監視されるのが嫌だというなら、皇典講研の本部へ連行する。何も起こらないことが証明されれば自由にしてやるぞ」
「なんであなたにそんな事を言われないといけないんですか!」
「力ずくで黙らせるしかないようだな」
七瀬が刀に手を掛ける。
止めようと身を乗り出した、その時、
「おい!」
いつの間にか入口の扉が開いていて、長身の若い男が立っていた。
黒い服に身を包み銀縁の眼鏡を掛け、きちりとした印象を受ける。
しかし、そこに存在している事すら嘘であるかのように、全く気配を感じない。
「刑部、何をしている……自分の言動を理解しているのか!」
七瀬が恐る恐る振り返る。
「二見……さん」
二見と呼ばれた男はズカズカと歩み寄ると、七瀬から刀を取り上げた。
「事情を説明してもらおうか……。座れ」
土岐子に促されても座らなかった七瀬が、無言で礼儀正しく着席する。
先程までの不遜な態度が、まるで別人のように素直になった。
「いや、聞いて下さい、二見さん。この鬼の女が何かにつけて突っかかってくるんですよ。どうやら我々のやり方に文句があるみたいで……」
「我々でなくて、お前のやり方だろうが。何をしたのか、車中で報告を受けているぞ」
七瀬は二見の後ろに立っていた嘉治を睨みつけた。
お前がチクったんだろう、とその眼が訴えている。
二見がその視線を遮るように立ち位置を変えると、俯いてモジモジし始めた。
二見が続ける。
「今回のお前の行動は、公平性に欠けている。人とそれ以外に垣根を作るべきではない。それに、独断専行が過ぎる。なぜ本部の指示を待てなかった?」
「――何かあってからでは遅い。私の命一つで危機を回避できるならば、そうすべきです。指示を待たず襲撃したことは間違っていません」
その瞬間だけは二見の眼をまっすぐに見据えた。
その瞳には覚悟が宿っていた。
「はぁー」
二見が大きなため息をつく。
「命を軽んじるな。それはお前もお前以外も、人も人でないものもだ。お前が傷つくと悲しむ者がいる」
「そんな人はいません、もう……」
二見は七瀬へ歩み寄り、頭を軽く撫でた。
かと思ったら、頭を鷲掴みにし、ギューっと力をこめ始める。
イタイイタイと苦悶の声が洩れた。
「で、さっきの力ずくで黙らせるというのはどういう意味だ?」
「それは、そのー、あれです。皇典講研が舐められてはいけないと思って、テテテ痛い!」
不正解だったようで、更に加わる力が増す。
「いつも言っているよな、話を拗らせるなと」
「痛い痛い痛いって!」
七瀬は二見の腕を掴むと、引き離そうと試みる。
しかし、太腕の握力がそれを許さない。
「反省しているか?」
「反省しました! もうしません! 二度としません!」
ようやく刑の執行が終了する。
七瀬は半泣きで悶絶している。
二見は身だしなみを整えると、振り返った。
「皆さん、ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
恭しく頭を下げる。
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