第三十八話/三月二十二日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
一目散にみさきの元へ駆け寄ると、飛び散った血は消え、失われたように見えた首から上がうっすらと姿を現している。
それでもまだ、ぐったりと横たわっていた。
これは……
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ……
真言を唱えると、薬師如来が顕現する。
薬壺を携えた、治癒を司る如来様だ。
掌でみさきの身体をさすると、うっすらと眼が開いた。
「真魚……」
弱弱しくも声を発する。
「みさき、わかるか」
涙が溢れてきた。
「必死な顔して……何が起こったかわかりませんが、私が私の意志以外で消えることはありません。 真魚がいる限り、死ぬことも、無くなることもないのです」
「そうだったな」
それだけ言うと、みさきは再び目を閉じた。
急速に冷静さを取り戻していく。
鞄につけた感知陣の水晶珠に目を落とした。
割れていない。あれだけ力を解放したはずなのに。
やはりここは外界と隔絶された、地脈の外にいるということだ。
幻か。
気がつけば、七瀬が背後に立っている。殺気はもう感じない。
「もう一度問う。お前は空海か?」
「いかにも。空海だ」
「ただちに在るべき場所へ帰れ。高野山の御廟へ戻り、修業を続けられよ」
「それができればそうしている」
「空海ほどの者をもってしても、解法がわからないというのか」
「不肖なる子孫のした事。責任をもって、解法は見つけ出す」
「そうか」
小さく呟くと、刀を鞘へ納めた。
「では、その責、見届けさせてもらおう」
「で、刃物少女、お前は何者だ?」
「刃物少女言うな!」
少女は服についた砂を払い落とすと、身なりを正した。
「私は刑部七瀬。摩利支天の眷属にして、超常現象から治安を守る使命を与えられている」
「では、七瀬よ。そろそろ元の世界へ戻してくれんか? みさきの回復が捗らない」
「気づいたか」
「摩利支天は陽炎の化身。ここはお前の術の中なのであろう。感知陣の水晶珠が反応しなかったのも、摩利支天の力だな」
「あんな見え見えの感知陣になど引っ掛からんよ。小賢しい」
七瀬が指を鳴らした。
その瞬間、子供たちのはしゃぐ声が聞こえ、鳥が羽音を響かせて飛び立ち、道路を車が過ぎ去っていった。
元の世界へ戻ってきたようだ。
「みさき、起きろ」
「んんん……」
みさきがゆっくりと目を開く。
「大丈夫か?」
「ええ、平気です。何が起こったのですか?」
「刃物少女に襲われた。だが、もう解決した」
「そうですか……殺してしまいましたか?」
「いや、お互いに無事だ。なんとか説得できた」
「よかったーっ!」
みさきは心底安心したように微笑んだ。
「真魚に殺生をさせたとあっては、私は死んでも死に切れません。道を違えることがなくて、本当に良かったです」
未熟な己の心根を恥じた。
「で、刃物少女は?」
「刃物少女言うな!」
「あなた……よくもやってくれましたね!」
みさきは立ち上がると、七瀬に詰め寄った。
「感謝しろ。本当に素っ首刎ねてやることもできたんだ」
「不意打ちじゃないと何もできないですもんね」
両者の間に火花が散る。みさきは踵を返すと、
「帰りましょう」
そう言って手を引き、車へ向かって足早に歩き始めた。
七瀬はその後をついてくる。
「なぜついてくるんです!」
「そういう約束だ。空海、説明してやれ」
「そういう約束たってなぁ。四六時中ついてくるわけにもいかんだろう」
「四六時中つきまとうよ」
七瀬はあっさりと怖いことを言い放った。
「住むところはどうするんだ」
「一緒に住むよ」
「絶対、いやです!」
みさきが猛反対する。
「無理矢理いう事をきかせてもいいんだぞ」
七瀬が刀をカチャリと鳴らした。
「やれるもんならやってもらいましょう!」
みさきも拳を振り上げ、構える。
「待て待て待て」
二人の間に割って入った。
「二人とも落ち着け。みさき、こいつの言動は滅茶苦茶だが、どうしても悪い奴には思えないのだ。実際、危害は加えられておらん。だが、得体は知れぬ。一度、土岐子に協力してもらって、落ち着いて話してみないか?」
「土岐子、ですか? そうですね。わかりました。真魚がそこまで言うなら一時休戦です。相談してみましょう」
みさきは早速、電話をし始める。
「七瀬、みさきを挑発するな。お前の立場もわかるが、こちらには何も情報がない。警戒するのは当然だろう」
「土岐子というのは誰だ?」
「吉備津神社の宮司の家系の者だ」
「ああ、藤宮の」
「知っているのか」
「ああ、知っている」
みさきは電話を終えると、
「土岐子がすぐに連れてくるようにと言っています。行きましょう」
そう言って、車へ乗り込んだ。
当然と言わんばかりに、七瀬も助手席へ乗り込んだ。
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