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第三十三話/三月二十二日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 頭の上に気配を感じ目を覚ますと、みさきが覗き込んでいた。


「うおっ⁉」


「美緒ですか? いや真魚ですね。よくあの後、すんなりと寝られましたね」

 呑気なお人だ、などとぶつくさ言っている。


「そろそろ畑に行きますが」


「おお、行こう」


「まだ眠ければ寝ててもいいですよ?」


「甘やかすなぁ」

 布団に沿うように寝かせてあった錫杖を手に取ると、起き上がる。


「では、お言葉に甘えてこき使います。顔を洗って、こちらに着替えて下さい」


 みさきから服とタオルを受け取ると、洗面所へ向かう。

 廊下でふと、何事もなく今日を迎えられた事を実感した。

 昨日の心配は杞憂きゆうだったようだ。

 みさきに無駄な心配をかけてしまったことを申し訳なく思った。


 顔を洗い、パパっと準備を整えると、外へ出た。

 頬を撫でる風が冷たい。

 空は薄明かりで満たされている。

 庭から望む吉備の平野を薄い青が覆っていた。

 みさきは先に出て、車を車庫から出している。


「さぁ、乗って下さい」


 車へ乗りこむと、庭から続く細い道を駆け上がっていった。

 家の屋根を見下ろす高台に柵で囲われた畑が広がっている。


「ここがみさきの畑か?」


「そうです」


「伽耶は?」


「まだ寝ています」


「人に手伝うことを提案しておいて、自分は寝てるんだな」


「伽耶は常にそんな感じです」


 畑に横付けして車を停めると、みさきは荷台から鋤を取り出した。


「真魚は水やりをお願いします。この蛇口をひねると水が出ますので、この辺りに満遍まんべんなく与えてやって下さい」


 みさきが身振り手振りを踏まえて指示を出す。


「気をつけて頂きたいのは、畑を荒らさないようにホースの位置を見ながら移動して頂きたいのです」


「ほう。このくだがホースだな。これを引きる時に気をつけるのだな」


「そうです。うねを引き摺ってしまうと、芽が出なくなってしまいますので。砂が土になり、泥になって流れ出る手前くらいまで水をやってもらえますか。何かあれば呼んで下さい」


 そう言うとみさきは何も植えられていない更地の方へ歩いて行く。

 言われた通り、水やりを始めた。

 ホースの先についた筒から霧雨のように水が降り注ぐ。作業自体は簡単だ。


 一一いついつちりの中にほとけみないりたまう


 畑仕事も修業の内と言ったのは方便ではない。

 塵一粒、水一滴の中にも仏は宿り、虚空へと繋がっている。

 それを感じるか感じないかは、心の在り方次第だ。

 乾いた土は無尽蔵に水を吸い込んでいった。

 ホースを手に、行っては戻りを繰り返す。

 無心で水やりを続けると、終わりはすぐにやってきた。

 いつの間にか姿を現した太陽は、いつくしむように大地を照らしている。

 完了を報告するため、みさきの元へ向かった。


「水やりは完了だ」


「ありがとうございます。随分熱心でしたね」


「こういう作業は得意なのだ」


「それでは戻りましょうか。朝ごはんにしましょう」


 みさきは太く育ったネギをめりっと二本引っこ抜き、


端境期はざかいきですから、今日の収穫はこれだけですね」


 そう言うと、用意してあった竹籠たけかごの中へと放り入れ、申し訳なさそうに笑った。

 車へ乗り込むと、もと来た坂道を下る。


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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