第三十二話/三月二十一日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
さて、眠る段となった。
伽耶は相当疲れていたようで、早々に寝所へ引っ込んでいった。
あてがわれた部屋に、みさきが布団を敷いてくれる。
「何かあったら起こして下さいね」
「ああ、わかった。みさき……」
「何でしょうか?」
「色々とありがとう。一二〇〇年ぶりにここへ来られて良かった」
「何ですか、改まって……」
「明日……」
できる限り不安にさせないように、言葉を選ぶ。
「明日を迎えられるとは限らないから」
「そんな事って……」
「ないとは言い切れないだろう。睡眠が魂にどう作用するか、この未知の状況ではわからない、という事だ」
みさきは思いつめた表情で、走って行ってしまった。
悲しませるつもりはなかったのだが、事実は伝えておかねばならない。
寝てみないとわからない、とりあえず寝よう、と襖に手をかけた所でみさきが戻ってきた。
その手には布団の一式が抱えられている。
「その布団はどうするのだ」
「一緒に寝ましょう」
「いやいやいや、同じ部屋で寝るなんて」
「女同士ですし、問題もないでしょう」
「いや、何が起こるかわからない。危害を加えてしまうかもしれないのだ」
「構いません。何があっても、真魚を引き留めます」
みさきが折れる様子はない。
「では、何か異常があったらすぐに逃げるのだぞ」
「わかりました!」
みさきは嬉々として、隣に布団を敷いた。
「電気を消しますね」
「ああ……」
部屋が暗くなると、否が応でも自分と向き合うことになる。
今日は目まぐるしい一日だった。
そして、自らの信念が揺らいだ一日でもあった。
果たして、満たされたこの世界の人々を救うことができるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、沼の底へ引き込まれるように意識が沈んでいった。
「美緒、そこにいるのはわかっているぞ」
真っ暗だ。
夢の中であることは自覚していた。
呼びかけた相手は何も言わない。姿も見えない。
しかし、目の前の闇の中に彼女がいる事だけははっきりとわかっていた。
「何が目的だ?」
美緒が息を殺して潜んでいる。
問いかけ続けるが、応えは返ってこない。
近づこうとすればするほど離れていく。
「美緒、話をせんか?」
その後も話しかけ続けたが、反応はなかった。
暗闇の中に座り込む。
「翁も心配していたぞ」
情に訴える作戦である。
「せめて翁にだけでも電話をしておけ。言い訳も謝罪もしなくていい。ただ元気である事だけは伝えておいた方がいい」
わかった。そう聞こえた気がした。
瞼を開くと、みさきが覗き込んでいる。
「うおっ!」
思わず握っていたスマホを放り投げた。スマホ?
「真魚、いや美緒ですか?」
「儂は真魚じゃ」
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
みさきはスマホを取り上げると、耳に当てて話し始めた。
「もしもし、美緒のお爺さまですか? どうやら真魚が寝ている間に美緒が電話したという事で間違いないようです。ええ、失礼します」
電話を切ると、スマホを手渡した。
「私が起きた時には既に真魚が電話していました。会話の内容からして、美緒がお爺さまに電話していたようでした。真魚は何か覚えがありますか?」
「夢の中で美緒に、翁へ無事を伝えるように言ったんだ」
「美緒と話したのですか!」
「あれを会話とは言わない。しつこく話しかけたが、知らんぷりを決め込んでいてな」
「どちらも頑固そうですね」
みさきはクスリと笑った。
「でも、よかった……真魚を連れて行かないでくれて……」
その後、夢の中に美緒が出てくることも、声が聞こえることもなかった。
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