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第二十六話/三月二十一日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


「ずっと考えてたんだけど……」

 話に区切りがつくのを待っていたかのように、伽耶が切り出した。


「追っ手の刃物少女をおびき出して事情を聞くってのはどう?」


「突然襲ってきたんだぞ。話が通じる相手じゃないだろう」


「でも、相手の出方がわからない以上、この場所が特定されるのも時間の問題かもしれないよ。なにかしら対策が必要じゃない?」


「そりゃ対策があれば講じておきたいが……」


「それについては私に案がある。この周辺に感知術を施すの。刃物少女は霊力を発してたんでしょ? 加護の力である霊力ならば感知しやすいはずなんだよね。事前に察知できれば、逃げる時間くらいは稼げると思うけど」


「そんな術があるのか?」


「私のように法力があまり強くない人間は、陣を使って感知するんだよ。パワースポットに集まる霊力を借りてね」


「ぱわーすぽっと?」


「地脈の中心で、霊力が溜まりやすい所だよ」


「鬼ノ城か」


「そうそう。鬼ノ城もパワースポットの一つだね。あとは霊峰とか神社とか」

 なるほど。吉備の国には、そういった場所が多い。


「早速行こう。みさき、車を出してくれる?」


「今からか?」


「早いに越したことはないでしょう?」


「では、車を出してきますね」

 みさきは鍵を手繰ると、外へ出ていった。


 伽耶はスマホを使って、どこかへ連絡している。

 どうやら、陣を張る場所の許可を取っているようだ。

 伽耶に連なって玄関へ向かった。


「鉄騎じゃないのか?」

 玄関の脇に停められた鉄騎を指さす。


「鉄騎? ああ、バイクの事? バイクだと二人しか乗れないから、車で行くよ」


 そういう間に、みさきが縦長い黒鉄の車に乗って現れた。

 前方の箱型の部分に乗るらしい。

 後方は荷台になっており、すきくわが積まれている。


「さすがに三人だと狭いねぇ」

 右にみさきが乗り、左に伽耶が乗った。

 挟まれるようにして二人の間へ座る。


「真魚、シートベルトを……こうして……」


「こんな締め付けるような帯をして乗るのか?」


「安全のために必要なのです」

 そういうと、みさきも自らのシートベルトを締めた。


「伽耶、まずはどちらに行きますか?」


「吉備津神社へ。必要なものがあるから、取りに行こう」


「了解しました」

 車がゆっくりと動き始める。


「バイクに比べると遅いが、乗り心地はいいもんだ」


「ああー、みさきの運転はひどいからね」


「誰だって矢が飛んで来たら、ひどい運転になりますよ」

 みさきが頬を膨らませる。バツの悪そうな伽耶が唐突に話題を変えた。


「ところで、高校へ入学したら真魚はどうするの?」


「そう言われると、考えていませんでしたね」


「真魚はどうしたい? 一緒に高校に通ってみる?」


「そりゃ、学校という所に興味はあるが、行けるのか?」


「オッケー! そういう事なら力になるよ」

 やけに高揚した様子で、ポンポンと肩を叩かれた。


「そもそも美緒は何歳なんだろう? 見た感じ、中学生みたいだけど」


「さっき聞いておけば良かったですね」


「では、聞いてみよう。スマホがあれば容易いことだ」

 伽耶に使い方を教わりながら、先ほどの番号を呼び出す。

 スピーカーモード? はここを押すのだな。


 ポンポロンポンポポポン……


『また、お大師さまですか?』


「おう、よくわかったな」


『どうやらスマホのロックは解除できたようですね。で、どうされました? 錫杖を返してくれる気になりましたか?』


「しつこいのぉ。美緒の年齢を知りたいのだ。中学? とかいう学校に通っているのか?」


『美緒は来月から高校へ進学する予定でした。ですが、この状況ですと、休学させる他ないようですね』


「えぇー! 同い年だったの?」

 思わず伽耶が声を上げる。


『あなたは誰じゃな?』


「あの、真魚、じゃなかった。美緒のお爺さんですね? 私は吉備津神社の宮司の娘で藤宮と申します。初めまして」


『吉備津神社の……』


「命を狙われている空海は、しばらくここから離れることができません。このままですと、吉備津神社の庇護の下、生活することになるでしょう。しかし、美緒にとって休学が続くことは今後の汚点になり兼ねません。可能かどうかはわかりませんが、こちらの高校へ編入する手続きを進めてもよろしいでしょうか」


『そりゃ、空白期間ができるよりは、高校に通っている方がいいだろうが……そんな事、可能なのかな?』


「たぶん大丈夫だと思います。前例がありますので。ただ、ご内密に」


『わかりました。お願いしましょう。転入の書類を用意しておきます』

 伽耶は電話を切った。


「大丈夫なのか?」


「まあ、大丈夫でしょう。みさきと同じように、吉備津神社で庇護するのは確実だし。ただ、一緒の高校へ通うには、普通の人間と同じようにはいかないのよ。特殊な機関を通して手続きをしているの。ま、私も詳しくは知らないから、父さんにお願いするんだけど」

 ほとんど丸投げだった。伽耶の軽い調子に、一抹の不安がよぎる。


「気になるのは刃物少女ね。霊力を操るなんて普通じゃないもん。何らかの機関に所属しているはず。学校へ通うとなると、居場所がバレちゃう可能性は高いかもね」


「蛇の道は蛇、ですね」

 みさきが神妙な面持ちで呟いた。


「真魚は本当にいいの? 興味本位だと危険かもしれないよ」


「引き籠っていても解決には至らないだろう。覚悟はしているさ」


「良かった。それなら後は任せて」

 そのやる気の満ちる力強い言葉に背中を押される。しかし、疑問は残っていた。


「どうしてそこまでして学校へ通わせようとしてくれるんだ?」

 鞄からスマホを取りしながら、伽耶が輝くような笑顔を放つ。


「その方が楽しい高校生活になりそうって思ったの」


 そう言って、嬉しそうに電話を掛けはじめた。


「あ、父さん、相談なんだけど……」


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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