第二十五話/三月二十一日
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
「この中にはどんな情報が入っているのだ?」
スマホを手渡しながら、伽耶へ尋ねる。
「他の人とのやり取りとか写真とかメモとか、かな」
スマホをいじりながら、素っ気なく答える。
「一人で行動することが多かったとはいうものの、協力者がいないとも限らんよなぁ」
「美緒は真言に精通していると言いましたね。真言に関係ある数字じゃないでしょうか?」
スマホの画面を覗き込んでいたみさきが呟いた。
「試しに真魚の誕生日を入れてみよう。いつ?」
「六月十五日だ」
「〇六一五、っと」
……伽耶の顔が歪む。
「あっさり解除された。そして、ホーム画面も空海……」
「美緒は重度の空海オタクのようですね」
みさきもあきれ顔である。
「今時の女子とは思えないね。神社仏閣の写真ばっかり。自撮りもなし。あ、これは……」
その中の一枚を見せてくれる。
「ここは、高野山か……」
「一週間ほど前だね。ごく最近、行ってるみたい」
「となると、高野山に関係している可能性が高い、か」
「SNSは……っと、こっちは別のロックがかかってるね。あとは特に変わった所はないかなぁ。協力者の影はないようだけど。っていうか、友達の影すら見当たらないけど……」
「収穫としては、高野山が関係している可能性が高いことと、美緒が高次元の空海マニアでボッチという事でしょうか」
「あまり収穫とも言えないような……」
伽耶があきれ顔で呟く。
「とにかく情報収集を続けて、あらゆる可能性を探る他ないだろう。学校には史記や記紀が収集されているのか?」
「それらは学校ではなくて、図書館という施設にあります」
「ほう、それは興味深いな。行ってみたい」
「今日は休館日ですので、明日行ってみましょう。最近はこのスマホでも色々と調べられますよ。やり方を教えましょうか」
「その前にこの、にょろにょろした文字はなんなのだ? これのせいで意味が取りづらい」
「それは平仮名ですよ。そっか、平仮名知らないんですね」
「えっ、真魚って平仮名知らないの?」
伽耶が目を丸くする。
「初めて見たぞ。梵字ともまた違うものな」
「漢字を基にして、平仮名と片仮名という日本独自の文字ができたんですよ」
「なるほど。だから、漢字を書き崩したような字が多いんだな。まずはこの文字を習得したいのだが、教本はあるかな?」
「図書館にあるとは思いますが、四十八文字なので今教えましょうか?」
「頼む」
みさきは声を出しながら紙束に「安」と書いたのち、「あ」と書いた。
それを四十七文字繰り返し、最後に「ん」と書く。
続けて、片仮名も同じように声を出しながら書いた。
「何も見ずに、よく教えられるね」
伽耶が感心したように声を上げる。
「これでも伽耶の一〇〇倍は文字と付き合ってますから」
みさきはあっさりと言ってのけた。
「よし、たぶん大丈夫だ。ありがとう」
「えっ、もう覚えたの?」
「ああ。漢字に紐づいているのなら、難しくはない。一夜漬けで唐語を覚えさせられた時に比べたら、簡単なもんだ」
「では、算用数字も必要でしょうから、お教えしておきましょう」
みさきは平仮名と同じように声に出しながら、「一」と書いた横に「1」と書いた。
「10」までを書き終えると、「廿」と書いて「20」と書く。
その後も漢数字と算用数字を交互に書いていった。
「この算用数字というのは見やすくていいな」
「真魚、これもどうぞ」
みさきが棚から取り出したのは、分厚い書物だった。
「これは辞典といいます」
「辞典?」
「これは漢和辞典と言いまして、言葉の意味を調べることができるのです」
「なるほど。わからない言葉はこの辞典を使って調べられるんだな」
「そうですね。あともう一つ」
みさきがもう一冊、本を取り出した。辞典に比べると格段に薄い書物だ。
「これは歴史の教科書です。これまでの日本の歴史が一冊にまとめられています」
「おお、こんな大事なものを借りていいのか?」
「この世界では子供でも持っていますよ」
「なんと! こんな国が時間をかけて編纂するような本を、皆が持っていると!」
「わからない所は教えますので、言って下さいね」
「ああ、ありがとう」
これでこの世界の事をある程度、知ることができるだろう。
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