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第二話【全六十七話】/序章②

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 森の奥をのぞきこもうと足を踏み入れたその時、わずかに空気の震えを感じた。


「何か音が聞えませんか?」

 地鳴りのような音が近づいてくる。


「地震か?」

 七瀬が身構えた。音は段々と大きくなっていく。



 ――ゴゴゴゴゴゴ、ゴッ!



 轟音に見上げると、頭上を覆うように大岩が転がり落ちてくる。


 とっさに霊符を構えた七瀬を押しのけて、大きく一歩前へ踏み出した。大岩を両手で受け止めると、森とは反対の方向へ取り回す。大岩は車道を跨ぐように谷底へと落ちていった。両手を打ち合わせて、てのひらについた砂を払い落とす。


「あらら……アスファルトに足形が……」

 踏ん張った後には、くっきりと足跡がついていた。


「みさきは相変わらずの怪力だねぇ」

 ガードレールから身を乗り出すように、伽耶が谷底を覗きこんでいる。


「七瀬! 今のは霊符では無理ですよ! 一人で先走っちゃダメじゃないですか」


「お前たちがノロノロしているからだ」


「事前に話し合った陣形を守らないと危ないでしょう」


「うるさいなぁ。ったく、お前は私の……」

 七瀬は言葉に急ブレーキをかけると、顔を赤く染めた。


「お前は私の……何ですか? お母さんって呼んでもいいんですよ?」


「そんな事思ってない!」


「この間は泣きながら、お母さーんって言ってたじゃないですか」


「そんな言い方はしていない!」



 引き返せ……引き返せ……引き返せ……



 耳鳴りのように低くくぐもった声が森にこだまする。


「言霊を使えるなんて、低級霊ではないな。それにこの瘴気、かなりの数の怨霊が集まっているようだ」

 七瀬の表情が一転して険しさを滲ませた。


「もはや祭祀では解決しないだろう。祭壇もこんな状態だしな」

 首なしライダーに蹂躙じゅうりんされた祭壇に目を伏せる。

「どうやらこの森の奥に瘴気が溜まっているようだ。そこを叩くしかあるまい」


 森へと分け入っていく。暗闇を漂う陰鬱いんうつとした空気に悪寒が走った。頭にライトを着けた七瀬が、道を作るように先頭を進む。伽耶が続き、その後を追った。最後尾には真魚が回り、大光量の懐中電灯で足元を照らしてくれている。


「この先から気配がする。油断するなよ」



 引き返せ……引き返せ……引き返せ……



 声は次第に強くなり、不快感が増す。突然森が途切れると視界が開け、月明かりが差し込んだ。堆積した泥と落ち葉で縁取られた、大きな沼が広がっている。その端にはうらびれた木製の祠が傾いていた。


「これでは昼間にいくら祈祷しても効果がないだろうな。この沼の奥へ潜むように瘴気が溜まっているようだ。光も届かない」



 何者だ……引き返せ……



 低く威圧的な声が脳の奥にまで響く。


「チィッ!」

 禍々しい声を振り払うように、七瀬が霊符に手を掛けた。



 我が神域を冒す事は許さん……



「これだけ瘴気を垂れ流しておいて何が神域だ。姿を現せ!」

 霊符を繰り出すと、傾いた祠が炎に包まれた。燃え上がった祠が沼に沈んでいく。いや、呑み込まれていく。よく見ると大量の影の手が、祠を引きずり込むようにうごめいていた。


「うわっ! 気持ちわるー……」

 伽耶が嫌悪感を露わにする。


「数が多いな……」


 伽耶と七瀬はお互いに背中を預けるように、肩を寄せ合った。真魚は錫杖を構えると、私を守るように一歩前へ踏み出す。祠が沈み切ると今度は沼全体が大きく盛り上がった。沼の中から巨大な塊が湧き上がってくる。その周囲には大量の影の手が這い回っていた。


「オオハンザキだ!」

 伽耶が叫ぶ。


「オオハンザキ?」

 七瀬は初耳のようだった。


「強い生命力と呪力を持った、オオサンショウウオの化け物だよ。どうやらオオハンザキが瘴気を餌にして地縛霊や動物霊を取り込んでいるみたいね」


「十メートルいや、十五メートルはあるぞ」

 大きな頭を持った流線型の巨体に四本の太い脚。オオハンザキが一歩を踏み出すたび、地鳴りが響き渡る。



 喰い殺してやる……!



 七瀬は霊符を繰り出し、呪文を唱えた。四方からオオハンザキを目がけて飛んでいく。しかし、長く伸びた影の手が遮るように掴み取ると、霊符は空中で炎を上げて燃え上がった。爆炎を割るようにオオハンザキが突進してくる。


「速い!」

 その巨体からは想像できない速度で七瀬へ迫り、大きな口を開けてかじりついた。七瀬は跳び上がると、身体を捻って間一髪で巨体をかわす。オオハンザキは前足を使って急ブレーキを掛け、木々を薙ぎ倒してようやく止まった。小回りは効かないようだ。



「覇ぁっ!」



 目の前で動きの止まった巨体へ踏み出すと、その側面に全力の掌底を叩き込む。手ごたえはあった。しかし、衝撃で巨体が大きく揺らぐものの、致命傷を与えるには至らない。オオハンザキはその円らな瞳で、ギロリと睨みつけてきた。


 反撃とばかりに、長く伸びた影の手が、大挙して眼前に迫る。この手に捕らわれると、オオハンザキの口の中へ一直線だろう。大口に放り込まれる光景を想像すると震えがきた。身構えた瞬間、真魚が遮るように目の前に立ち塞がる。手にした錫杖をバトントワリングのように振りかざすと、迫る影が霧のように消え去った。


 オオハンザキの注意が逸れた事を見計らって伽耶が長弓を引き絞り、矢を放つ。矢はオオハンザキの眉間へ見事に突き立った。



 グォオォオオオオオオ



 オオハンザキが咆哮し、身を捩る。怯んだ黒い巨体に七瀬の霊刀が迫った。大量の影の手が、四方八方から七瀬を目指して襲いかかる。


「ひれ伏せっ!」

 裂帛の気合いを放つ七瀬。その紺碧こんぺきの瞳が、ひと際鋭く輝いた。呼応するように霊力が解き放たれると、沼から噴き出した水柱の奔流が影の手を薙ぎ払う。水柱を縫うように駆け出した七瀬の霊刀がひらめいた。



 ギャアアアアアア



 すれ違いざまに、オオハンザキの巨体が真っ二つに裂ける。


「――仕留めた!」


 しかし、裂け目から黒い煙が湧き立つと、ずれた巨体が再び影に包まれる。大きな黒い塊となったオオハンザキの裂け目から突如として、大量の手が噴き出してきた。跳びかわそうとする七瀬の腕が影の手に捕らわれる。


「離せっ!」


 引き剥がそうとする七瀬を掠めるように、一閃がはしる。腕に絡まった影の手は伽耶の放った矢によって弾き消された。空中で一回転した七瀬は膝をつき、着地する。その背中を踏み台にして、入れ替わるように真魚が虚空へ飛び出した。




 ノウマク サンマンダ バザラダン カン……




 手で印を結び、真言を唱えると真魚の身体が炎に包まれる。荒れ狂う火焔かえんの中に剣を持った太腕が垣間見えた。龍が巻きついた倶利伽羅剣くりからのけん



 姿をあらわしたのは、破壊と再生を司る不動明王だ。



 オオハンザキと同等の巨体である。その火焔は空を焼く勢いで立ち昇り、右目は天を、左目は地を見据えている。憤怒の形相でにらみつけられたオオハンザキは、たじろぎ一歩退いた。


 不動明王は飛び出した勢いのまま、オオハンザキへ向かって突っ込んでいく。滑り込むように身を捩ると、オオハンザキの側頭部に不動明王の右膝が叩きつけられた。



真・閃光魔術ネオ・シャイニング・ウィザードwith不動明王」



 衝撃とともに金色の光がほとばしる。目が眩むほどの明るさで周囲が照らされた。その輝きに駆逐されるように、影の塊が光の粒となって雲散霧消していく。


 後に残ったのは小さなオオサンショウウオだった。ポテっと沼へ落ちると、一目散に逃げ去っていく。辺りに静けさが戻り、沼には月の光が差し込むのみとなった。


「な……な……」


 唖然とした表情で、七瀬は頬を引きつらせていた。

「なんだ! 今のは!」

 天を仰いで叫ぶ。


「何って、『真・閃光魔術ネオ・シャイニング・ウィザードwith不動明王』だが?」

 不動明王の顕現を解き、元の制服姿へ戻った真魚が事も無げに答えた。


「だから、それは何なんだと聞いているんだ!」


「最近、プロレスにはまっていてな」


「「プロレスぅ⁉」」

 七瀬と伽耶の声が重なった。


「即身成仏により顕現した不動明王の脚に法力を集中させて、放出する技だ!」

 真魚は自信満々に、控えめな胸を張って答える。


「倶利伽羅剣を使え! 倶利伽羅剣を!」


「それじゃ普通じゃろ? 皆を驚かそうと思って、こっそりと練習を重ねておった甲斐があったわ。プロレスはいいぞぉ。ますますばく進します! ってな」


「空海ともあろうお方が、そんな暴力的な興行にのめり込んでいいのか?」


「これだから素人は……」

 チッチッチと指を動かす真魚のしたり顔に、七瀬は明らかにイラっとしている。


「暴力じゃないぞ、プロレスは。技と魂の饗宴きょうえんなのだ」


「時代劇の次はプロレスか……。一ヶ月で趣味が広がりすぎだ……」



 そう、あれからひと月が経った。真魚が突然、この世界へ舞い戻ってから――


お読みいただきありがとうございます。

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そうそう、そこそこ。ありがとうございます!


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