第十六話/三月二十一日/真魚⑥
“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”
佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。
圧倒的な祈りの力、法力を伴って……
千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。
弘法大師『空海』・・・真魚
吉備の鬼神『温羅』・・・みさき
『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶
空海を追う『摩』法少女・・・七瀬
四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――
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岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。
小旅行気分でお読みください。
弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。
また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。
漆黒の鉄騎はぐんぐんとスピードを上げていた。
みさきの背中を小突き、声をかける。
「みさき、追っ手の気配がない。作戦を立てよう。どこかに停められるか?」
「では、この先で停まりましょう」
鉄騎はこれまた大きな唸りを上げて、道端に停車する。
みさきが先にスッと降りると、手を差し伸べてきた。
カラカラと笑っている。
「たとえ追いつかれても、必ず私が守りますよ」
「なんとも頼もしいことだ」
みさきにつられるように笑みがこぼれた。
「追っ手は何者なんですか?」
「わからない。この身体の主、『美緒』が何かをしたらしい。それにしたって、問答無用で襲ってくるものか?」
問いであり、愚痴である。
「なんとも言えませんが、あなたに今起こっていることは尋常ではありません。調べる必要がありますね……。と、その前に、その溢れ出る法力を何とかできませんか?」
「法力?」
「追っ手も強力な法力の波動を辿ってきたのでしょう。そんなに垂れ流していると、どこにいたってすぐに察知されてしまいます」
「そんなに目立つか?」
「敏感ではない私でも真魚だと気づく位ですからね。一二〇〇年前とは違うのです。信仰が衰退したこの世の中では、あなたの法力は異常ですから」
「しかし、法力を止めるなんてやったことがないぞ。方法を知っているか?」
みさきは首を横に振る。仕方がない……あの御方に聞いてみよう。
ノウボウ アキャシャ ギャラバヤ オンアリキャ マリボリ ソワカ……
手で印を結び、真言を唱えると、身体から光が溢れ始める。
顕現したのは虚空蔵菩薩。
智慧を司る菩薩様だ。
しかし、平常の即身成仏とは異なり、扱いが難しい。
人の身にそのお姿を写すことはなく、心の中に顕れるのだ。
結果、虚空へ向かって会話することになる。
「虚空蔵菩薩様、お忙しいところすみません! はい、はい、そうなんですよ~。大変な事になっちゃいまして……で、ええ、ええ、法力をね、はい、はい、腹筋に軽く力を入れて、ええ、ええ、後頭部から体全体を膜で覆うように、ですね? はい、はい、やってみます。はい、ありがとうございます!」
独り言のようなその有様を、みさきが怪訝そうに見つめている。
「何度見ても、滑稽な光景ですね」
滑稽とか言うな。菩薩だぞ。
身体から溢れていた光が消え去り、虚空蔵菩薩様はお帰りになられる。
言われた通りにやってみた。
「どうだ? まだ法力を感じるか?」
「いえ、溢れ出ていた法力が見事に抑えられているようです」
さすが、困ったときの虚空蔵菩薩様!
これで、法力を察知されることはないだろう。
「ところで」
みさきがおずおずと問いかける。
「真魚はまた、どこかへ行ってしまうのですか?」
「いや、あてが無くてな……。この姿で高野山へ戻っても、信じてもらえないだろうし」
身を翻し、一回転する。身体が格段に軽く感じた。これが若さ、か?
「では、鬼ノ城へ来ませんか? 昔のように」
「いいのか?」
「ええ! もちろん!」
丑寅みさきは「鬼」である。
その住み家、鬼ノ城へ向かうことになった。
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