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エインヘリャル物語 〜橘啓吾 列伝〜  作者: 真面目 雲水
第二章 行きて帰りし旅路
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閑話 使者

そろーっと閑話を投稿

むぅうそれにしても最近忙しくて執筆時間がしっかりと取れない……

か、書き溜めががが


 いま、魔法使いオージンは愛馬に跨がっている。

 連銭葦毛の見事な馬体は疲れた様子もなく、一陣の風となって西へ西へと駆けてゆく。

 どうしたことか、行商人や旅人はすぐそばをすれ違う老人を気にもとめない。


 オージンは昨晩遅くまでアルトゥーリと何やら語り合っていた。

 軽く腹を満たして少しばかりは眠ったようだが、払暁を迎える前には里長の館を発っている。

 里で彼の姿を認めたものは数えるほどもいない。


 まさしく、尋常のことではない。


 オージンが「魔法使い」などと呼ばれるのは伊達ではないのだ。

 この世界において“魔法”は“魔術”と一線を画している。


 魔術とはすなわち、精霊などの力を借りてなにかしらの現象を起こす技能である。

 したがって、世界に隠された法則から逸脱することはできない。


 対して、魔法マギは人智を超える力である。

 古代の神々やそれに類する存在は、魔法によって世界すら改変する。

 オージンが生まれた頃などは、大地を焼き払い山脈を消し去るような魔法に通じた存在が未だ生き残っていたものである。


 そういう存在をかつては賢者と呼び、この頃は魔法使いという。

 彼らは皆、冥王とその系譜に抗い、散っていったのである。

 オージンは紛れもなく最後の魔法使いであった。


 だが数千年の時を経て、その力はすでに衰え始めている。

 オージン自身がそれをよくよく分かっていた。

 不老の肉体は頑健そのものでも、魔法を使えば使うほどにその魂に終わりが近づいてくるのである。


 少なくとも数十年で朽ちることはない。

 それでも冥王が残し、世界に広がる闇を根絶するにはいかにも心もとないのである。


 馬上で、オージンは啓吾のことを思い出していた。


 遠い昔から予言されていた特別な放浪者の少年だった。

 彼自身、実に長い間その来訪を待ちわびていたのである。

 言葉を交わしたのは短い時間であったが、それでも彼にとっては人柄を見るに充分なものである。


 人並み外れたオージンをして、

(実に、頼もしい若者じゃ)

 と思わせるほどであった。


 彼は多くの放浪者と接している。

 そのいずれもが面白い人物であった。

 しかしあの齢で、オージンに怖じけず前に出るほどの胆力の持ち主は他にいなかった。


 それでいて人となりも悪くない。

 剣も十分に遣う。いや十分以上であろう。

 オージンは、いずれヨウシアやアルトゥーリすら超える武人になるという確信すら抱いていた。


(なればこそ、此度のことも彼の力を)


 オージンはそう考えている。

 この魔法使いは間近に迫った騒乱をその目で見た。


 鳥や獣、多くの友を持つこの魔法使いはほんの半月前に急報を受けて“穢れた山”の地下深くまで潜り込んでいたのである。

 土に隠れ風となり、ゴヴリンたちが巣食う暗いねぐらのすぐ側まで忍び込んだ老人はそこで万を超える冥王のしもべ・・・を見た。

 どこからともなく集まったゴヴリンやオルク、果ては東のトロルまでもが押し合いへし合いするようにして“穢れた山”にひしめいていたのだ。


 もはや一刻の猶予もない。

 オージンはそれからあちらこちらへと飛び回っている。

 オーストレームを訪ねたのもそれゆえであった。

 その上で、啓吾の助けを借りられないものかと思案している。


 今とて加勢を願うためにオージンは駆けている。

 メンカルトゥールの森から遠く西、コントゥラータにいるパンテラ騎士団へと向かっているのだ。

 それでもなお、オージンは危機感が拭えないでいる。


(はて、どうしたものかのう……)


 オージンの目が細まった。

 尋常でないこの老人にかかればコントゥラータまでさほどの日数もかからない。

 その間に色々と図らねば、というわけである。

 萌黄色の瞳が深い光を宿した。


 どこかで、木菟ずくが鳴いている。


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