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エインヘリャル物語 〜橘啓吾 列伝〜  作者: 真面目 雲水
第一章 転生した剣客
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閑話 二人の覚悟

本日最後の投稿。

第一章もあとわずか、第二章からはみんながバンバン動き回るよぉ


「ふうむ」


 困ったように唸るアルトゥーリの目の前には揃って頭を下げるクリスタとサンテリの姿がある。

 傍のヨウシアとエミリアも寝耳に水であったのか驚きを露わにしていた。


 外ではすでに太陽が中天に登っており、昼食どきである。

 例に漏れず、里長の館でもどこかから帰ってきたアルトゥーリやヨウシア夫妻を交えて汁物とバケットという簡単な食事を腹に収めたところである。

 昼食を終えて一休み、の段になって二人がいきなり頭を下げたのだ。


 クリスタとサンテリの願いは「強くなりたい」という一言に集約している。

 それ自体は結構なことなのだが、未だアルトゥーリはサンテリに槍を教えていない。

 野山を走り回っているだけでも十分だと思っていたのだ。


(……早すぎる、ということもないのだが)


 アルトゥーリはあまり良い顔をしていない。

 エリアスやクリスタの例もあるのだから、頭ごなしに否定するつもりはない。そのうちにやらねばならないことではある。

 とはいえ、生き急いでいるのではないか、と思わなくもない。


「どうして、強くなりたいの?」


 彼の心持ちを代弁したのはエミリアであった。

 その顔に、言葉にできぬ慈愛にも似た微笑みが浮かんでいる。


 顔を見合わせた子供たちは口々に自分の思いを言い募った。


 いまひとつ脈略のないそれらは、しかし子供たちなりに先の一件に対する自省が感じられる。

 がむしゃらに強くなりたい、という風ではない。

 曖昧ながらも一本の芯が通っているようにアルトゥーリが感じたのは確かである。


 一瞬、目を瞑って溜め息をこぼしたアルトゥーリはヨウシアとエミリアの視線を感じながら再び目を開いた。

 諦念じみたものを滲ませながらも、夫妻はすでに結論が出ているようであった。

 アルトゥーリは重い口をゆっくりと開いた。


「……よかろう」


 子供たちの歓声にアルトゥーリは苦笑を浮かべた。

 面倒な稽古を喜ぶ子供というのも変な話だ、と思わないでもない。

 似たような苦笑を浮かべていたヨウシアが口を開く。


「それで、具体的にはどうしたいんだい?」

「私、サンテリみたいな稽古もしてみたい! それからもっと剣も!」


 いち早く答えたのはクリスタである。

 欲張りな発言ではあるが、今までの実績を鑑みると無理だとも言いづらい。


「それは構わんよ、サンテリも喜ぶだろう。……ただし、厳しいぞ」

「大丈夫!」


 脅かすようにそう言ったアルトゥーリの弁は、しかしクリスタには何の痛痒でもなかったようである。

 とりあえずは様子を見るしかないか、とアルトゥーリは腕を組んで髭を撫ぜながら思案した。

 代わりに口を開いたのはヨウシアである。


「ねえクリスタ、弓も学んでみるかい?」

「ほんと!?」


 飛び上がるように喜んだのはクリスタのみならずエミリアもである。

 ヨウシア自身はこの前の妻との会話をふと思い出しただけであったのだが、返事も聞かずに席を立った二人は隅の方に行って何やら密談を始めてしまった。


「あ、あはは。困ったな……」


 放って置かれたヨウシアの哀愁が何とも言えない。


「ふむ。それでサンテリは槍を遣いたいのかね?」

「はい」


 一転して重々しく口を開いたアルトゥーリに、サンテリは確りとした口調で答えた。

 昨日までの彼とは別人のような気合いである。


 父として嬉しく思いながらもアルトゥーリは目を瞑って黙り込んでしまった。

 不安に揺れるサンテリの耳と尻尾がしんなりと項垂れる。

 しばしの重苦しい沈黙の後、その口が開いた。


「分かった」

「ほ、本当!?」

「ただし」


 飛び上がりかけたサンテリを押しとどめてアルトゥーリは目を開いた。


「合わせてヨウシア殿にも学ぶことが条件だ」

「父上?」


 サンテリが怪訝そうに首を傾げた。

 確かにワイネン流槍術の継承者らしくもない物言いである。


「ヨウシア殿、頼まれていただけるか」

「はあ……。それはまあ構わないけれども。しかしどうしてまた」

「まあ、わしなりの考えもありはするが。……息子にはやりたいことをやってほしいという我侭、か」

「……なるほど。それなら、喜んで」

「ということだ」


 息子を振り向いたアルトゥーリの顔に微笑みが浮かんでいる。

 おとなしい息子は口に出さないものの、エリアスやクリスタの稽古を内心で羨み、剣にも興味を持っていたことを彼は知っていたのである。


 槍に特化したワイネン流に没入して一つの道を極めようとしているアルトゥーリであるが、かつてサンテリを連れてきたウルバヌスがそうであったように剣も槍も扱える戦士の生き様というものもよくよく知っている。

 なればこそ、息子にはそういう道も選べる機会を作ってやりたかったのだ。


 どこまで養父の思いを読み取ったのか、言葉にならぬ様子で顔を歪めたサンテリが嗚咽を漏らしながら頷いた。

 慌ててその小さな背をさするアルトゥーリをヨウシアは微笑みながら眺めた。


(はてさて、今頃エリアスはどうしているかな)


 願わくは何事もうまくいってくれればいいのだけれど、とヨウシアは思わずにはいられない。


今回も脚注がない(´・ω・`)ショボーン

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