第四章 三ツ星冒険者 その6
午後、ダンジョンへの準備にルーネイとクルナイスの二人と共に街に繰り出していたサザキは買い物がひと段落したところで二人と別れてとある場所を訪れていた。
奇形のご神体の周りで今日も多くの信者が祈りをささげている。サザキはその者達を避けて奥へと歩みを進めた。
司祭は前回来た時と全く変わらぬ様子でサザキを迎えてくれた。
サザキが訪れたのは神殿であった。実は騎士団での討伐戦の折にかなりレベルが上がってクラスアップは可能になっていたのだが、その後戦う機会というものが無く先送りになっていたのだ。
≪名前≫ サザキ
≪レベル≫ 36
(体力)89 (魔力)17 (筋力)100 (器用)127+10%
(敏捷)106 (知力)144 (精神)161
≪スキル≫
異世界の理、付与魔法
Lv50で冒険者として中堅、その頃になると優れたステータスで100越えが見えてきて、一流の基準とされている。
武田がサザキのステータスの異常を指摘した理由がよく分かる。
もう少し早くこのステータスに気が付いていれば、もしかしたらサザキはモンスターを倒して英雄でも目指していたかもしれない。
司祭が差し出した水晶球に手をかざすと現れた文字はローグとアーチャー。ハンターからクラスアップ可能な二つのクラスが共に表示された。
「メイジといい、あなたはずいぶん優秀な戦士であるようですね」
水晶球の表示を見た司祭は思わぬ言葉を口にした。まさか自分を覚えているとは思わなかったサザキを驚かせた。
「覚えていたのですか?」
「メイジを希望しない者はそれだけ珍しいという事です。もっとも、思い出したのは三ツ星冒険者を見に行ってあなたを見かけたときですがね」
私も案外ミーハーなんですよと司祭は笑ってみせた。
「話を戻しましょう。どちらの道を希望しますか?」
サザキは迷うことなく答えた。
「ローグを希望します」
司祭が大仰に杖を振りかざす。
「我らを父として導き、母として育む偉大なる創生の神よ。この者の新しき道を照らしたまへ」
前回は演出の一環としか感じられなかった行為だが、ハンターという加護に幾度も救われてきたせいなのか再び行われるその行為はとても神聖なものに感じられ、気が付けば膝をついて祈りをささげていた。
ローグとはハンターの能力を隠密性に強化した職である。ステータスはハンターで与えられる器用+10%の補正に追加で敏捷+10%の補正を得る。
またスキルは高速での行動に補正が入る『クイック』と認識を阻害出来る『ハイド』である。
ステータスに補正が入り、新たなスキルも手に入った。けれどやはりと言うべきか今の時点で変わったという実感は無い。
「神殿に行くならそう言えばいいのに」
サザキが神殿を出たところで脇から声を掛けられた。振り向くとそこにはクルナイスとその後ろに微妙に隠れる形でルーネイが居た。
「二人とも何で?」
「サザキがまた女の子を買わないか心配で付けてきたんだよ」
クルナイスは悪びれる事無く言ってくる。一方の隠れるようにしているルーネイは付けたことに罪悪感があるのだろう。
「それで無実が証明された訳だがもう帰るのか?」
二人ともサザキに付いてくるくらいだから買い物はもう終わったのだろうとサザキは判断する。
「うん、けどせっかくだしボクもお祈りしていこうかな」
「そうですね。それにしてもサザキもダンジョンに行く前には神に願うのですね」
二人はサザキが神殿に来た理由を勘違いしていた。
「違うぞ。今日来たのはクラスをローグにしようと思ったからだ」
ダンジョンに行く前には伝えておかなくてはいけないのでサザキはこのタイミングで伝えることにした。
「え? サザキはハンターだよね?」
「ローグですか?」
二人は混乱したように視線が揺れる。何を言い出すんだこいつといったところだ。
サザキとしてはここまで動揺されると、自分でもステータスだけ伸びて実力が伴っていないと分かっていても気持ちのいいものでは無い。
「俺はステータスの伸びは良いんだよ」
そんな気持ちだったためつい言葉にトゲが含まれてしまう。
「ごめんなさい。あまりに意外だったので」
ルーネイは謝ってくれたが、さりげなく追い打ちをしてくれた。
「本当なの!? 信じられない」
クルナイスに至っては謝る気がそもそもないようであった。
話が落ち着いたところでクルナイスが神殿に入っていった。
「ボクもクラスを見てもらう」
祈るのかと思っていたらいつの間にか目的が変わっていた。サザキとルーネイは互いに顔を見合わせて笑った。
「ルーネイは行かないの?」
「ここで待っていましょう」
神殿内では私語をするような雰囲気ではないので、しばらく外でクルナイスを待つことにした。
「ところでクーってクラスに付いてなかったのか?」
「たしかウォーリアだったはずですが」
自力で素材集めをしているのだから一次職になっていてもおかしくは無い。ドワーフなら人より力や体力に優れているのでなおさらだ。
「でもクラスアップは早いよな」
「そうですね。サザキが異常なだけでクラスアップなんてそれだけで一流の証ですから」
「じゃあ何しにいったんだろ」
結局二人で考えてみても答えは分からないままだった。
「そういえばルーネイはもうメイジになったの?」
サザキはクラスの話からであった頃にルーネイがメイジになれるといった話をしていたのを思い出して聞いてみた。
「今更ですね。王都に居たときにもうクラスアップしてます」
「王都ってことはこの前の忙しいときに?」
「違いますよ。ポーションを作り終わった後の時間があるときにです。パーティメンバーだというのに私の事をろくに知らないんですね」
ツンと拗ねてしまったルーネイを前にサザキは藪蛇だったかと後悔した。
「いや、ほら俺もいろいろとあって忙しかったし」
騎士団とダンジョンに行ったりして大変だったんだよとサザキは暗に理解を得ようとした。
「そういえばそうでしたね。娼館に行ったりマイサちゃんを買う計画を立てたり忙しかったですからね」
「え? そっちじゃなくて……」
サザキの言い訳を両断すると、未だ言い訳を続けようとするサザキの言葉はもう聞かないと言わんばかりにぷいと顔を背けてしまった。
「うおぉぉぉぉぉーーーー」
言葉が途絶えた静寂を埋めるように、雄叫びを上げて神殿からクルナイスが突進してきた。
声に驚いてそちらを見た二人が見たのは飛び掛かってくるドワーフの娘であった。
何も考えずに体が動いた。ルーネイは冒険者としてやってきた経験が、サザキは強化されたステータスが、素早く相手との距離を測り最小限の動きでクルナイスを躱していた。
標的であった二人が居なくなったことでクルナイスは勢いよく地面を転がっていく。
「へぷっ」
そして近くの樹にぶつかったところでようやく止まった。
かなり大きな音を立てたのでサザキとルーネイは大丈夫なのかと心配したが、当のクルナイスはあっけらかんとして起き上がった。
「二人とも避けるなんてひどいよ」
「そんなこと言われても、あの勢いで来られたら誰だって避けるだろ」
サザキの隣でルーネイも首を縦に振っている。
「それよりさっきのは何があったんだ?」
「そうだ、聞いてよ」
ぶつぶつと文句を言っていたクルナイスはサザキに問われるとぱっと顔を輝かせた。
「なんとボクもクラスアップしました」
何を言っているんだ、というのがサザキの最初に思った事だった。そしてさっきのルーネイたちもこんな気持ちだったのかと妙に納得が出来た。
「クーはそんなにレベル高かったの?」
尋ねたのはルーネイだ。サザキとクルナイス、二人の実力は自分とそう変わらないものだと思っていたが、実は自分だけ低かったのではないかと内心かなり焦っていた。
「違うよー。ステータスだとウォーリアになったくらいだよ」
「それならクラスアップしたってどういうことだ?」
聞いたのはサザキだ。この世界のクラスは一度就いたらクラスアップ以外に変更の手段は無い。ハンターに就いた後に改めてウォーリアになることは出来ないのだ。
「ふふふん。教えてあげましょう」
クルナイスは鼻息を荒くして胸を張った。
「な、な、なんと、ボクはユニーククラスになったのです」
どうだと言わんばかりのドヤ顔である。
「本当に!? すごい!!」
ルーネイがクルナイスに駆け寄り手を取って喜ぶ。
「ユニークってたしかパラディンとかだっけ」
「そうだよ。伝説になる様な人はユニーククラスの人が多いんだから」
「はー。何はともあれおめでとう」
サザキにはユニーククラスというのがよく分からなかったため一応祝いの言葉だけは言ったのだが、どうにもクルナイスはその反応がお気に召さなかったらしい。
「なんだよ。なんか味気ない反応だなぁ。さては羨ましいんだね」
「羨ましいも何も、ユニーククラスってのがよく分からないし。そもそもそれでクーは何になったんだ?」
クルナイスの機嫌を損ねることは避けたかったが、ユニーククラスに付いて知らなければ褒めようも無い。仕方が無くサザキは素直に聞いたが、それを待ってましたとばかりにクルナイスは機嫌を直して話し出した。
「ボクが就いたのはドールマスターっていうんだよ。器用と魔力に補正が15%も付いて、スキルも3つ新しく覚えたんだから」
新しい3つのスキルとは『精密操作』『魔力伝達』『遠隔操作』の3つで、効果は読んで字のごとくらしい。
「ところでユニークジョブには今就いて良かったのか?」
話を聞いていてふとサザキが疑問に思ったのは普通に上級クラスになってからユニークにクラスアップした方が結果としてスキルが多くなるのではというものであった。それに足してのクルナイスの答えはそれは無いというものだ。
「ユニーククラスになるとそれまでのスキルは使えなくなるんだよ。だからボクももうウォーリアのスキルは使えないよ」
近接戦闘もこなしてゴーレムを操って、クルナイス一人で戦闘をこなせるのではとサザキは思ったが、どうやらそこまで都合のいい話では無かったようだ。
そんなこんながありつつ、サザキは個人としてもパーティとしても大幅に戦力を強化して再びダンジョンへ挑むこととなった。




