第三章 ゴーレムの可能性 その3
ギルド長の家の作業場で6人は向かい合うように座っていた。
しかしそれは穏やか場で無い事は一方の3人が地べたに膝をついていることから一目で分かる。
「それじゃあこれもゴーレムだってのか」
ひとしきり話を聞いたボーボンは実物を目にしてもそれが信じられなかった。
膝をつく3人というのはサザキ、ルーネイ、クルナイスであり、その横には試作3号機の残骸が置かれている。
向かいで椅子に腰かけるのはギルド長のボーボン、サザキとルーネイの身元保証人にあたるイグリス皇子、そして警備隊の隊長であった。
つまるところサザキたちはゴーレムの件で取り調べを受けているのだ。
「そうだよ。これがあればボクにだってゴーレムを使えるんだから」
「お前は黙っとれ」
ゴチンと音がしそうなボーボンの拳骨がクルナイスに落とされる。サザキたちは思わず顔をそむけたがボーボンらドワーフ達は殴られたクルナイスも含めてけろりとしている。
ゴーレムの暴走でクルナイスは最後に盛大に放り飛ばされたと聞いていたが、目をまわしただけで怪我は一切なかった。ドワーフというのはかなり頑丈なようだ。
「サザキよ、これがクーの為の物ってのは分かったんだが、本当にこれはゴーレムなのか?」
ボーボンはすごい、役に立つと興奮して繰り返すだけのクルナイスからの説明を諦めて発案したというサザキに話を聞く事にした。
「これがゴーレムかと言われると分かりませんが、使っているのは間違いなくゴーレムを操作している魔法ですよ」
サザキは工房に在った籠手を持ってきてボーボンらに見せる。
「ボーボンさんはこれを魔法で動かせますか?」
「当然だ」
見せられた籠手はどこにでもあるものだ。部品数はそれなりだが、構造は熟知しており操作に支障はない。
「それは籠手全体を魔力で操作するんですよね」
「ああ、そうだが」
ボーボンはその質問の意味が分からなかった。
物体を操作できるゴーレムの魔法では対象を魔力で覆う事は常識だ。そのため土や砂といった一纏めに覆う事の出来る対象を操作する事は楽であり、今回の籠手のようにそれぞれの部品に分かれている対象は部品ごとに操作が必要なために動かす事は難しいとされている。
「今クーにやってもらっているのは籠手を子の一本の紐で操作する事です」
サザキは籠手から不自然に垂れていたひもを引っ張る。すると籠手の拳部分が閉じた。
ネタばらしだというようにサザキが籠手の内側を見せると、そこには数本の糸が張り巡らされておりそれにより紐と連動して拳部分が開閉するようになっていた。
「それに意味はあるのか?」
尋ねたのはボーボンだ。
「開閉の動作はしているが魔法のように細かい動きが出来るわけじゃない。紐一本で操作するなら力加減やタイミングで物を掴むだけで苦労するだろ」
ボーボンは籠手を見てクルナイスが何を賞賛しているのか余計に分からなくなった。籠手を動かすという事において、サザキの作った籠手は魔法に勝っている面が無いように感じられたのだ。
「確かに籠手一つ動かすなら魔法の方が優秀でしょう。けれど数十個同時に動かすとしたらどうですか?」
思わせぶりなその言葉にボーボンはサザキ達の傍らに置かれる残骸に目を向けた。
「あれをそうやって動かしていたと言うのか!?」
「正確には紐だけでなくてバネなんかの要所要所の駆動部分をですが」
ボーボンは騒動を起こしたゴーレムはクルナイスの変質的なまでの神経質な性格によって強引に動かしたものだと思っていた。しかしサザキはゴーレムを単純な操作を組み合わせることで動かしたというのだ。
「あれを動かすのにどれだけの部分を動かしたんだ」
ボーボンの頭の中を様々な思いと考えが渦を巻くように駆け回っていた。
「20ヶ所だよ」
クルナイスが身を乗り出して答える。
「多すぎる。そんなに魔法を制御できるのはお前くらいだ」
「そこは機能の制限と動作を連動させることで減らしていく予定です」
ボーボンの言葉にサザキがフォローを入れる。今作っているのはあくまで試作機だ。単純さを求めているため今の時点で改善点は多く挙がっている。
「これは最終的にはどういったものになる予定なのかな?」
それまで興味深げに話を聞き入っていたクルナイス皇子が話に入ってくる。
「作業が出来る手と移動できる足を付けて鉱山での発掘や運搬を出来るようにする予定です」
ボーボンはその言葉にイメージが沸いたのかクルナイスにいろいろと聞き始める。一方の質問したイグリス皇子は考え込むようにうつむいて黙り込んでしまう。
ようやく顔を上げたイグリス皇子にさきほどまでの真剣な様子は無くなっていた。
「君達には本当に驚かされる事ばかりだ。もしかしたら新薬と剣術に続いてこれも国として表さねばならないかもしれないな」
そう言ってにやりとサザキに笑って見せた。
「ところでだ、今回の騒動は幸いなことに魔物では無かったが街に混乱をもたらした責任は取らないといけない」
イグリス皇子の言葉に皆が一様に沈痛な面持ちとなる。裁かれる側のサザキ達は当然として、ボーボンにとって相手は娘であるし、警備隊隊長にしてもクルナイスとは顔見知りだ。イグリス皇子にとってもサザキ達が裁かれるとなると顔に泥を塗られたことになるうえ、戻ったら表彰される予定の二人がここで罪を裁かれるのは政治的にも避けておきたい。
しかし、無かったことにするにはあまりにも事態が知られ過ぎていた。
「思うところは分かるが、御咎めなしって訳にはいかんだろ」
ギルド長として、ボーボンがそこを譲ることは出来ない。
「それは当然だ。けれど対象を個人では無く団体になら出来るのではないか?」
「ギルドかお前さんのところで罪をかぶるってのか?」
イグリス皇子が頷くとボーボンは腕を組んでしばらく黙りこんだ。
「そこまでする意味はあるのか?」
「意味はある」
イグリス皇子ははっきりと断言をした。
「俺はこのゴーレムの技術はポーションの調薬方法と同じく世界の常識を変えるほどのものだと思っている」
違うかと、そう問われるとサザキは頷くしか無い。
この世界には動力という概念が無いのだ。魔法は代用とされているが水車に魔法で水を出して動力を得るといった間接的なものしか存在していない。
「確かにこれは新しい動力になると思います」
「動力とは?」
「物を動かす力のことです。例えばここ、魔法で回転させてますが、これを馬車の車輪に付ければ馬車が動かせます」
「なるほど。風魔法で押したり、付与魔法で馬車を軽くするような間接的な方法でなく、直接魔法で馬車を動かせるのか」
「そりゃあ確かにすげぇな」
ボーボンが驚きの声をあげる。当然そのくらいは想像できていただろうと思っていたクルナイスとルーネイまで一緒に驚いている事にサザキはどうなのだろうかと思ってしまった。
「その技術の公開をもって今回の件を不問としたい」
イグリス皇子の提案にクルナイスが反対する。
「ちょっとまって。いくら皇子でも人が編み出した技術を奪うなんて言うのは横暴すぎるよ」
この世界では新しい技術は何より価値のあるものと見なされている。そのためたとえ国であっても本人の意思を無下には出来ない。
「サザキとルーネイはこの技術を公開する気は無いのか?当然有用性は理解しているので我が国を挙げて支援をしよう」
「私は手伝っていただけなので」
ルーネイはそう言って判断を避ける。
「公開する事はまぁ構わないんですが、それで終わりじゃないですよね」
一方のサザキは、技術は公開して磨かれていくべきだという考えを持っている。生活に困窮するような状況ならともかく、すでに家と結構な額の報酬を得られることになっている。また勇者たちと共に帰れる算段が付いた今、金銭への執着はそれほど無かった。
「ボクも発案したサザキがいいっていうのなら認めるけどさ」
未だ納得がいかないながらも発案者のサザキの意見であるためクルナイスもしぶしぶと引き下がる。
サザキは技術への対価や報酬よりも、先ほどからイグリス皇子の様子が今回の件とは違うところを見ているようで、それが気になって仕方が無かった。だからこそ話を振ったのだが、結果としてそれは藪蛇にしかならなかった。
「そうだな。賢者に出会った時点である程度察してはいるだろう。魔王が復活した」
「おい、まだその話は!!」
ボーボンがすかさず静止するが、それは何よりの肯定であった。
「とうちゃん、本当なの!?」
ボーボンがしぶしぶ頷く。
その場で驚いたのはクルナイスとルーネイのみであった。王族やギルド長のみならず街の警備を取りまとめる者にまで話が伝わっていることは事態がかなり進んでいることを示していた。
「その準備はし過ぎることは無い。馬車での運搬速度が上がるだけで戦いは楽になるし」
イグリス皇子は言葉をいったん区切ってゴーレムに視線を向ける。
「そのゴーレム、戦いにも使えるだろう」
その確信めいた言葉にサザキは反論を諦めた。自分の広めた技術が戦争に使われる事を臨みはしなかったが、技術とはそういうものだ。今否定したところで数年もすればやはり戦いの道具として転用されるだろう。
「一つ条件があります。戦いの為に使うのは構いません。しかし同時に一般での利用も広がるようにしてください。元々はクーが他の人と同じようにゴーレムで作業を出来ることを目的にて始めたのでそこを疎かにはしたくありません」
戦うためだけの道具にならないようにする。それがせめてものサザキの抵抗であった。
「ならばお前たちはそのままクルナイスのゴーレムを作ればいい。けれど人員は戦闘用を作る分の捻出で精一杯だぞ」
イグリス皇子の言葉を受け、ボーボンが頭をかきながら答える。
「好き勝手言いよって。人手がただでさえ足りない状況でいつ結果も出来るか分からんものに避ける人員などおらん。皇子に数人付けるのがせいぜいだ」
ボーボン自身は物を見てゴーレムを面白いと感じたがいかんせん時期が悪すぎたのだ。目の前に新しい技術があるのに手を出せないというのは断腸の思いであったが無いものは無い。
そんなボーボンの思いは、けれどサザキによってあっけなく覆される事となる。
「ギルドの協力が得られるのなら集めてほしい人たちがいるのですが」




