第三章 ドワーフの街 その2
翌日、サザキとルーネイは朝一番にギルドを訪れていた。
「まった?」
入り口わきで壁にもたれる二人に声を掛けてきたのはクルナイスであった。
オーバーオールだった昨日とは違い今日は鎧を着けている。
「クルナイスも戦えるのか?」
ルーネイが鉱山での採集をしたいという事だったのでクルナイスに尋ねると案内役を買って出てくれたのだが、見た目から戦闘が出来ると思っていなかったサザキはその姿に驚いた。
「クーって呼んで。みんなそう言うから」
ドワーフは過去の偉大な作品から名前を貰うらしい。けれど大概は仰々しい名前のため普段は愛称を使うとのことだ。
「自分の使う素材は自分で取ってくるのがドワーフ流だからね。浅い所ならあたしだって良く行くよ」
腕まくりをしてみせるのだが、健康そうな焼けた肌をしてはいるが女の子らしいルーネイと変わりない腕であり、サザキは納得のいかなさを感じた。
そんなサザキの不安を余所にクルナイスは慣れた様子でどんどんと掘られた坑道を進んでいく。
坑道は大人が3人は横に並べるほどに広く、けれど背の低いドワーフの基準なのか、それほど背の高くないサザキでも跳ねれば頭をぶつけそうな高さしかなかった。
「脇に入ればもっと狭いよ。奥に行けばビックワームの穴と混ざって道もめちゃくちゃだし」
ビックワームというのは巨大なミミズの魔物であり、これが山中を縦横無尽にくり抜いていくらしい。
「ちょっとまってください」
サザキとクルナイスが話しながら進んでいたのをルーネイが呼び止める。
振り返るとカンテラを上にかざしながら天井に手を伸ばしている。
持ち運び用とはいえ魔導カンテラは結構な重量がある。
見ているうちにもルーネイの腕はプルプルと震えだし、1分と持たないうちに下におろしてしまった。
「見てないで手伝ってくださいよ」
必死に手を伸ばす様が愛らしくて眺めていたサザキにルーネイが文句を言う。
「コケ?」
興味をもって近づいたクルナイスがルーネイとは違い楽々とカンテラを掲げながら天井を見つめる。
「鉄苔です。金属を多く含んだ岩に生えて、滋養強壮剤に使えます。特徴はこの根の部分で、固い岩に生えられるように……」
語りだしたルーネイをパコンとサザキは叩いて話を止めさせる。
「採るなら早くしろ。奥まで行くんだろ」
「そうでした」
ルーネイの説明好きも行き過ぎなければ悪いことでは無い。知識欲を満たせるし、薬草の知識などは冒険者の生存率にも直結する。
しかし、それが葉脈の美しさなんてものを語り始めるならやはり行き過ぎなのだと思う。
普段は行き過ぎない様にサザキが止めるのだが、本日はクルナイスが居た。
もてなしの一環としてなのか、いくらでも話を聞いてくれるクルナイスを相手にルーネイの話は葉脈の美しさを超えてサザキも知らない次のステージ、理想の根の広がり方に突入していた。
未だ坑道は浅く、たまに他のドワーフと会うのでそれほど危険は無い場所であった。それでも話しながらもルーネイたちは周りに気を配っていたらしく坑道内に珍しい物があれば気が付いていった。
「あそこに変わったところがありますね」
サザキは延々と続いていたルーネイの話が止まった事にほっとしながら示された方向に目を向けた。
ルーネイが指差した先では壁の一部が周りのと違う光沢を放っている。
「あれは魔力を帯びてるんだよ」
「それって、魔鋼!?」
驚くルーネイにクルナイスは首を横に振る。
「あれはほんのわずかにってだけ。ここら辺じゃ、そんな濃度の高い魔力なんて無いからね」
その答えにルーネイが肩を落とす。クルナイスが言うには魔鋼が出来る様な場所は少なくとも数日は坑道を潜った先らしい。
「魔鋼の品質ってのはあてたときの音色で分かるものでね、いいものほど高い音が出るんだ。一般で言われる色で見分けるっていうのは実は精度が低くて……」
クルナイスが魔鋼の産出場所や特徴を詳しく教えてくれる。
サザキが気が付いた時には草トークが終わり、岩トークが始まっていた。
坑道から抜けると空はすでに茜色に染まっていた。
日中のほとんどを坑道に潜っていたサザキは開放感から大きく伸びをしていた。
「今日は本当にありがとう」
「この程度、どうってことないよ」
背後ではすっかり打ち解けて意気投合したルーネイとクルナイスが手を取り合っている。
クルナイスの案内はとても分かりやすく、また彼女の連れていたゴーレムが採集物を持ってくれたおかげでかなりの量の素材を持ち帰ることが出来たのだ。
「滞在中は坑道に潜るつもりなんだけど、次の案内もクーにお願いできる?」
装備が出来るまでの約一ヶ月を坑道や山でのルーネイの採集に充てる予定であったサザキたちにとって、ルーネイのその言葉は自然と出たものだった。
しかし、当然受けてもらえるであろうと言ったルーネイは返事がすぐに来ない事に途惑った。
「もしかして迷惑でしたか?」
ルーネイの口調が先ほどまでの親しい言葉づかいから余所行きの丁寧な言葉になる。
「違う」
クルナイスが強く否定する。が、その後に言葉は続かない。
「今日は急だったからあたしが案内したけど、ギルドに言えばちゃんとした人付けてもらえるから」
結局出てきたのは説明にもなっていない言葉であった。そのままクルナイスは荷物をギルドに運ぶからと言って逃げるように先に行ってしまった。
「それで俺に聞きに来たわけか」
ギルドに戻ってきたサザキとルーネイはそこにクルナイスが居ないとギルド長に面会を申し出た。クルナイスを探し出して話を聞いても良かったのだが、見つけたところで素直に話が出来るとも思えなかったためだ。
「俺はてっきりクーの奴が何かやらかしたかと思ってどう謝ろうかとひやひやしていたぜ」
ボーボンは事の顛末を聞いて笑い飛ばした。
「クーの案内はとてもよかったです。だからこそまた案内を頼みたかったのですが」
ルーネイの言葉にボーボンは幾ばくか神妙な顔つきになる。
「ギルド長の娘をやっているだけあって、知識は豊富だからな」
「では何で」
親しく成れたと思ったクルナイスに拒絶された事がショックだったのか、ルーネイにしては珍しいほど強い物言いであった。
「あいつのゴーレムは知っているな」
「はい。石を繋ぎ合わせたあれですよね」
これにはサザキが答える。坑道では鉱石や苔などよりこちらの方がサザキの興味をずっと引き、観察していたのだ。
「クーの奴はちゃらんぽらんな正確に見えて実は細かい事が気になる性格でな。部屋なんか散らかしているとすぐに怒るんだ」
誰かさんとは違うなとサザキが笑うと、横合いから肘が付き入れられ強制的に黙らされる。
「それだけが理由でもないんだろうがゴーレムでも細かいところが気になって、結局あんな状態にしか出来ないんだ」
ボーボンは子の不幸を嘆くかのように溜息をついた。
「けれど、今日だって多くの荷物を運べましたよ」
反論したのはルーネイだ。確かにゴーレムが居たおかげで3人で4人分の収穫があっただろう。
「普通のゴーレムならもっと運べる。それに坑道内だってスムーズに動けるはずだ」
言われれば街中の砂のスライムのようなゴーレムは丸太を抱えて運べるほどの力がある。
また、クルナイスのゴーレムと違って二本脚で歩かない分バランスも取りやすそうだ。
ルーネイは納得がいったようで、不満そうにしながらも黙ってしまった。
一方のサザキはボーボンが言うようにクルナイスのゴーレムが劣っているとは思わなかった。
「人型に近いなら細かい作業が出来たりするのでは」
実際に今日も採集の時にクルナイスを支えたりとしていた。
「そりゃ、少しは出来る。けど石を繋ぎ合わせただけじゃつるはしを握ることもできねぇだろ」
「だったらもっと小さい石を合わせて手みたいにすればいいのでは?」
「そんな細かい事をしたら魔力も足りないし制御も出来ねぇよ」
サザキの考えた案はあっさりと却下された。
「まぁなんだ。クーを気にかけてくれてありがとよ。坑道の案内は別にして、街の案内くらいなら出来るから誘ってやってくれ」
結局、行動の案内の件は保留となりサザキたちはボーボンに見送られてギルドを後にした。




