第二章 ポーション騒動 その6
更新が遅くなり申し訳ありません。
再開させていただきます。
話が纏まると皇子は引き上げの作業を後の者に任せ、サザキたちを連れて一足先に馬車で町へと戻ってきていた。
道中で聞けた話では、病に倒れたのはやはり皇子の家族、妹の第二王女であった。
国として動いてはいるが、居ても経ってもおられず皇子自身も霊薬の探索に乗り出したというので、考えるより動くことが特異な性格のようだ。
「結局上級素材の霊草は見つけられなかったから無駄足になったのだがな」そう終わらせた話を、サザキは名が知れた冒険者とはいえ、皇子がそう簡単に動き回っていいものなのかと呆れて聞いていた。
しかし、ルーネイは純粋に美談と感じたようで、感化されてやる気を漲らせることとなった。
街についたら一度別れてから改めて伺う事になると思っていたのだが、サザキの予想に反して馬車は皇子の指示のもとサザキたちが泊まる宿へと直接乗り入れた。
大通りから入った路地に現れた場違いな馬車に辺りの住人が何事かと集まってくるが、皇子は気にした様子も無く、また護衛の者たちは慣れているのか職務からか押し黙っている。
ルーネイはというと一刻でも早く自分の研究結果を見せたいらしく、馬車が止まると一番に宿へと駆け込んでいった。
サザキだけが周りの視線に居心地の悪さを感じており、そんな様子が話しかけづらい皇子や取り巻きよりはと何事かと飛び出して来た宿屋の主人と辺りの野次馬たちに次々と質問を浴びせられることとなった。
一向に途切れる様子の無い質問に辟易して挙句には「皇子を待たせることになるので」と強引に引き上げてきたサザキはそのまま自分の部屋に入ろうとしたところで皇子の護衛にルーネイの部屋に来るようにとの言伝をもらい仕方が無く足を運ぶのであった。
研究室と化したルーネイの部屋に今4人が詰めかけていた。
ルーネイとサザキ、皇子、そして皇子が連れてきた薬師のマダヤである。
顔中の毛という毛が一切無く、年齢不詳のその容姿に最初は驚いたものの、話してみれば年下のサザキにも丁寧な言葉づかいで実験の失敗で毛という毛を失ったと笑って話してくれる気さくな人であった。
そのマダヤはルーネイと薬師同士で話し込んでおり、必然皇子の話し相手がサザキという事になる。
「難しいな。感覚がつかめない」
皇子は手にしていた棒切れを悔しそうに見つめている。
「私も感覚でやっているのでうまく説明できずに申し訳ありません」
そう言うサザキの手の先では手製の遠心分離機が音を上げて動いている。一度実践して見せることになったためだ。
サザキの予想では魔法の才があるのならだれでもサザキと同じことが出来るはずだが、結果は芳しくない。
「魔法とは得てしてそういうものだ。謝る必要は無い」
サザキの言葉を素直に受ける皇子のその様子にサザキは心苦しいものを感じていた。
皇子には感覚で使っているといったが、サザキの使う魔法はすべて日本でならった科学が基となっている。だからその知識を伝えれば出来るようになるかもしれないのだが、下手に説明するとサザキの異質さがばれかねないのであえてぼかして答えているのだ。
ちなみにルーネイに関しては特殊な付加魔法と認識されており、なにより彼女にとってはサザキの魔法より作られるポーションの方が重要で今まで追及してくることが無かった。
「その装置も数を揃えなくてはならないな。設計図はあるのか?」
そんなサザキの考えを知らずに皇子は今できることをと様々な質問をサザキに投げかけて、それを書き留めていく。
「無いです。手探りでなんとか形にした程度なので」
「ならば技師から手配が必要だな。構造も見直す余地があるか」
果たして加工技術などどの程度の物が作れるのかと思いながら話していたが、ドワーフによる加工や正式な付加魔法による強度や重量の操作などで魔導具としてかなり高性能なものが出来ることが分かった。
今までの生活では純粋に地球の退行した文明という印象であったが、魔法が係ると不釣り合いなまでに発達しているのはさすが異世界といったところだろう。
サザキからひとしきりポーションの精製方法を聞き終えると、
「王都へ連絡を出す。後を追うのですぐに出る準備をしておけ」
サザキたちに言い放ちマダヤと警備を連れて慌ただしく引き上げていった。
バタンと音を立てて扉が閉まるとそれまでピンと姿勢を張っていたルーネイがふにゃりとベッドに崩れていく。王族を単なる偉い人としか感じないサザキと違い、ルーネイは限界まで神経を張りつめていたのだろう。
「王都に行く準備があるだろ」
ルーネイはそれには答えずもぞりと体を動かすと寝返りをうってサザキの方を向いた。
「つかれたー」
「俺も疲れたよ」
じっと見てくるルーネイをサザキも見つめ返す。
「手伝って」
普段はしない甘えた様子にしかしサザキは「嫌だ」とにべも無く断った。
ルーネイは研究や実験は好きだが、整理や後始末は苦手だ、というより嫌いだ。
実験が続いており、ただでさえ荒れ気味だった部屋は、先ほど資料や実験結果を集めるために引っ掻き回したので更に酷い状態になっていた。サザキも疲れている今そこに手を付けたくはない。
しばらく遠心分離機の音だけがその場に響いていた。
「報酬もらったらどうしようか」
「そうだな。何かするにしてもまずはしばらくゆっくりと休みたい」
「なにそれ。年寄りみたい」
「年寄りなんですよ」
ルーネイは横になったままサザキを見つめながら話を続ける。
「王宮ってすごいのかな」
「そりゃすごいだろ。うまいものも食えそうだな」
「新しい装置とかあるんだろうね」
「だろうな」
サザキもルーネイを見返しながら、投げかけられる何気ない言葉に反していく。
「師匠はね。いくつかの国から誘われてこともあったけどそれを断って旅を続けていたんだ。分け隔てなくすべての人に薬が行き渡るようにだって」
取り留めのない話をいくつかした後、ルーネイはベッドの上でまたごろりと転がりサザキから視線を外して天井を見つめる。
複雑な感情が渦巻くその表情を見つめながらもサザキは当たり障りのない言葉で返した。
「立派な考えじゃないか」
「そうだよね」
ルーネイはつぶやくようにサザキに返した後、天井を見つめたまま黙ってしまう。
人生を左右する岐路にルーネイは立っている。年上としては声を掛けてやりたいところだがこの世界を分からないサザキに出来る助言など無い。せめて支えてやるくらいは、そう思いながらサザキはルーネイを見つめていた。
結局ルーネイの荷作りはサザキが半分以上行い、なんとか翌朝皇子が戻ってくるまでに終わらせた。
けれど「何が必要になるか分からない」という皇子の一言により宿の人を動員して部屋の荷物全てが馬車に詰め込まれる事になり、徒労となってしまった。
サザキはそんな不条理によって積み上げられた荷物の中に紛れるように寝そべっていた。
外では朝日に照らされた草原が青々と輝いている。
街の周りの穀倉地帯を抜けるその先は延々と続く街道以外に人工物の無い風景が続いていた。草原、森、山と緑に染められた中を街道の土色が一本の線となり横切っている。
そんな街道を10台近い馬車が列をなして進んでいく。全部皇子の馬車、という訳ではない。皇子の護衛を目当てに商人たちが付いて来たのだ。
ルーネイは朝から皇子に呼ばれてここには居ない。サザキも呼ばれたのだが昨日からろくに休む間も無かったので、体調が優れないと言い訳をして逃げるように荷物の間に身をすべり込ませていた。
ひと眠りと思って潜り込んだ荷台だが、しかし道が悪く、サスペンションも無い馬車では寝心地などあったものでは無い。結局サザキは半時もせずに寝ることを諦めて一団の中を見て回ることにしたのであった。




