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予期せぬ事態

 砂埃が落ち着くと、ゲートを破壊したものの姿が現れた。

 ライオンの頭に、体は馬、蛇の尾をもつ魔物。キメラだ。


「何だあいつどっから来た?」


 もう一つの会場で緊急信号弾が上がった直後に現れたというこたは、レティーシャのパーティが戦っていた魔物なのだろうか。


(首輪が外れている)


 キメラの首には首輪の残骸と思しきものがついていた。やはり何らかの原因で首輪が外れ脱走してきたようだ。

 会場は大混乱となっていた。先生たちが動き出していたが、パニックになった学生たちの対応に手をとられてキメラの対処にまで手が回らない様子。一方キメラはモネたちの方へ一直線に向かってきていた。吐息に火の粉が混じっている。


「戦うしかないようだな」


 ラウルが魔法防壁を展開する。キメラが炎を吹きかけて来るが、その炎はモネたちには届かない。


「エルくん、氷お願いします」

「しょうちっす」


 エルドリアスが詠唱している間にソルムスが飛び出す。


「よっしゃ、もういっちょやったるぜ!」


 ソルムスはキメラの隙をついて横っ腹に拳を入れた。


「ぎゃふっ」


 キメラが吹き飛ぶ。


「モネさんいきますよ!」


 エルドリアスの補助魔法で、モネの矢がヒンヤリ冷気をまとう。

 モネの放った矢がキメラの体に触れた途端、キメラの体はカチコチの氷に包まれた。

 数人の先生たちが氷漬けのキメラのもとへ集まって来る。その中には、ユマエ副学長もいた。


「どうして首輪が外れたのです」

「も、申し訳ありません! 私が取り付けたときは問題なかったのですが」

「調査が必要ですね。とにかくこのキメラを調べてみましょう」


 副学長はモネたちの方へ向き直ると、表情を変えずに言う。


「君たちよくやりました。とっさに生け取りの対応をしたのは見事です」


 それだけ言って引き返そうとする副学長にラウルが言う。


「先生、先ほど倒したトロールのこん棒も調べて頂けませんか? 魔石が埋め込まれていた可能性があります」

「魔石? どうしてそんなものが埋め込まれていたと思うのですか?」


 ラウルは学園長に理由を説明する。


「なるほど。ではそちらの方も同じく調査させましょう」

「ところで副学長先生、今夜の後夜祭は中止でしょうか?」

「いいえ、中止にはしません。表彰式も予定通り行いますから、あなたたちもそのつもりで」


 副学長はそれだけ言うとさっと踵を返して行ってしまった。

 話の通じる人でよかった。副学長はそっけない雰囲気だがちゃんと意見は聞いてくれる人のようだ。


「ということで、もろもろ気になることはあるが、あとは先生たちに任せよう。俺たちは後夜祭の準備をしなくちゃいけないしな」

「準備?」


 モネとソルムス、エルドリアスが首を傾げるとラウルはやれやれと肩をすくめた。


「俺たちは優勝パーティなんだぞ。今日の後夜祭じゃ主役になるんだから。ちゃんと身なりを整えないといけないだろう」


 そんなことを言われても、たいした服も化粧品も持ってないモネがやれる事といえば、せいぜい櫛で髪をとかすくらいだ。

 まあやれることだけやっておくかと小屋へ帰ろうとしたところ、後ろから声がきこえた。


「ラウルさんのパーティの方々ですね。僭越ながらわたくしどもが、身の回りのお世話をさせて頂きます」


 肩をつかまれたと思えばくるりと体を回転させられる。周囲に目を向けると、いつの間にかメイドさんたちに囲まれていた。


「え、あの……ちょっと」


 抵抗するいとまも与えられずモネたちは控え室へと連行されたのだった。




 夜。中庭の中央では、かがり火が焚かれていた。さらに中庭の一郭には料理エリアが設けられており、隣にある王宮からやってきた宮廷料理人たちが、腕によりをかけた豪華な料理を作っていた。

 モネはあふれていくる唾液をごくりと呑み込みながら、中庭に設置された壇場に立っていた。隣にはラウル、ソルムス、エルドリアスがいる。みんな仕立ての良い服に着替えて普段とは見違えるようだ。

 モネが着ているドレスも他の三人と揃えたデザインになっており、ユニフォームと同じく黒を基調とした生地に、ところどころ銀の刺繍が施されている。

 

「ラウルさんがみなさんの衣装を選ばれたんですよ。ほんとに素敵ですねー! うらやましいですわ」


 先ほどメイドさんたちが散々褒めちぎってくれたのだが、やはり一番この衣装が合っているのはラウルだった。

 ただでさえ人目を引く美貌の男が、こんな華やかな衣装を着ているのだ。もはやどこぞの王子様かと思えるくらい輝いている。


「きゃー! ラウル様ー!」

「こっち向いて〜!」


 司会が進行中にも関わらず黄色い声が飛びかっていた。モネとしては、みんながラウルに注目しているおかげで人前に立っていてもそれほど人目を気にせずに済むのはありがたかった。


「えー、静粛に。はいそこ、静粛にね。では表彰式をはじめます」


 モネたちの前には、ユマエ副学長が立っていた。


「本日は、ご多忙の学園長に代わって、副学長の私が表彰いたします」


 ユマエ副学長の声は相変わらず淡々としていた。ただその目はいつもより少し柔らかい気もする。


「まずは、リーダーのラウル・アルバーン、前へ」


 ラウルが一歩前へ出た。


「君はパーティのリーダーとして後輩たちをよく導き、またその類稀な防衛術でパーティメンバーを守りぬいた手腕は賞賛に値します」


 副学長からラウルに金のメダルが贈られる。ラウルは恭しくメダルを受け取ったあと、くるりと反転して集まった学生たちにお辞儀した。その流れるような美しい所作に、周囲からため息が漏れる。

 次はラウルと入れ替わるようにソルムスが前へ出た。


「ソルムス・コーグ。君は前衛として、その素晴らしい戦闘センスで敵をよく惹きつけ、パーティの勝利に貢献しました。また臆することのないその心は戦士として賞賛に値します」


 ソルムスは副学長からもらったメダルを高く掲げながら集まった学生たちに飛び跳ねてみせた。学生たちから笑いが起こる。


「次にエルドリアス・クレマン。補助魔法というのは目立つものではありませんが、君の能力なしでこのパーティの勝利はなかったでしょう。どんなときも仲間を信じ献身的に支えた君の精神力は賞賛に値します」


 エルドリアスはメダルを受け取ると、照れくさそうにお辞儀をした。


「では最後に、モネ・ルオント」


 モネは一歩前へ出た。


「今大会で彼女の戦術に驚かされた者も多かったでしょう。私もその一人です。敵を正しく見定めた洞察力、メンバーの力を引き出した戦術は素晴らしいものでした。今後の活躍に期待します」


 モネはメダルを受け取ると、先ほどメイドたちに教えてもらったとおりに学生たちへ向けてお辞儀をした。このときばかりは視線が自分に集まっているのが分かったので、緊張防止に舞台のシミをじっと見つめてなんとかやり遂げた。

 それでも顔は強張っていただろう。ただ、視線をぶらさず表情も変えず静かにお辞儀をするモネの姿は、本人の内心とは全く違って見えていたらしい。


「あの子すっごくクールでカッコイイよね」

「やっぱあれだけの戦術考えるやつは、いつも落ち着いてるんだな」


 なんか勘違いされている気もするが悪くは思われているわけではなさそうなので、うまくやり遂げたうちに入るだろう。

 最後にラウルが優勝カップを受け取り、表彰式は滞りなく終わった。

 このあとはモネたちも自由に後夜祭を楽しむ時間となる。

 壇上から降りると、ラウルはすぐさま学生たちに囲まれてしまった。

 人だかりの隙間からラウルと目が合う。ラウルは目で何かをしきりに訴えていた。


(はいはい)


 モネはラウルにうなずいてみせると、ソルムスとエルドリアスに向きなおる。


「ラウルさん、先に料理を取って待ってて欲しいそうです」

「しっかたねーな。ラウルの分も取っといてやるか」

「料理多そうなので、分野ごとに手分けしませんか」

「そっすね! じゃおれ、パンとかパスタ取ってくるっす」

「したらオレは肉と魚を攻めるぜ」

「私はデザートや飲み物を見てきましょう」


 では後ほどあのテーブルに集合で、と三人は討伐並みのフットワークでそれぞれ料理をとりに行った。


 バイキング形式で並んでいる料理は、どれも本物の宮廷料理人が作る正真正銘の宮廷料理。そんなもの人生でそう何度も食べられるものではない。高級かどうかは別として、モネは珍しい食材に興味があった。さすがに魔物は出てこないだろうが、宮廷料理なら庶民が使わないような貴重な調味料や香辛料も使っていそうだ。

 モネは期待に胸を膨らませながら、並んでいるデザートを端から一つずつ皿にとる。ショートケーキに見たことのない果物が沈んでいるプティング、宝石のように鮮やかな色のゼリー。モネは何度か席と料理エリアを往復しながら料理を運ぶ。


(さっき果物っぽいのが追加されてたな)


 モネが不思議な香辛料の香りがするパンプキンパイをテーブルに置いて引き返そうとしたとき、誰かに声をかけられた。


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