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ドクミズトカゲ

 ラウルと集合場所に向かうと、エルドリアスともう一人、ソルムスが待っていた。


「あれ、ソルムスさんも一緒に行くんですか?」

「何言ってんだよ、同じパーティメンバーなんだから当たり前だろ」

「あ、パーティメンバー……。そうだったんですね」

「そうだったんですねって、一緒にミノタウロスを倒した仲じゃねーか。そんなのもう同士だろ」


 ぐわはは、と笑うソルムスの隣でラウルが肩をすくめていた。

 後で聞いた話では、他のパーティはどこもソルムスを受け入れてくれなかったらしい。理由は独断先行するからとのこと。


(まあ確かに暴走イノシシみたいだもんな)


 ただその分、魔物を惹きつける技能は高いように思う。魔物だってあんな命知らずな人間が向かってきたらどうしたって注目せざるを得ない。それに動けなくなったとはいえミノタウロスの一撃をくらって立っていたのはすごいことだ。半端な前衛ではない。

 そんな彼の能力をうまく活かすことができれば、パーティとしてはかなり有益だ。

 独断先行は協調性がなく厄介者とみなされやすいが、最初からわかっていれば対処のしようはある。



 さて今回のクエストは、ドクミズトカゲ十匹の討伐だった。

 学園の薬草畑にやってきて薬学の先生が困っているというのだ。


「おらおら勝手に草を食うなあ! トカゲェ!」


 案の定、ソルムスは畑に着くやいなやドクミズトカゲに突進していった。


「食らえ! オレの鉄拳を!」


 ソルムスの凄まじい左ストレートがドクミズトカゲを直撃する。が。


 ぷよん。


 拳の衝撃はすべて、ドクミズトカゲの柔らかい体躯に吸収されてしまった。ドクミズトカゲは何食わぬ顔で薬草を食んでいる。


「なっ、なにぃ!? オレの拳が効かないだと!?」


 ソルムスは愕然としているが、そもそもドクミズトカゲに打撃は効かないのだ。

 自分の得意技が全く効かないなんて普通なら戦闘意欲がなくなってしかるべき状況であるが、ソルムスにとってこの状況は逆に燃えるものだったらしい。


「オレがこの程度だと思うなよ!」


 鉄拳や蹴りを十体のドクミズトカゲ相手に撃ち込み続けている。さすがにドクミズトカゲも煩わしいようでソルムス排除に動きはじめた。


「今のうちですね」


 モネはエルドリアスに移動速度向上の補助魔法を依頼する。

 ドクミズトカゲは泡を吐いてその泡に乗って滑るように高速移動する魔物だ。一体ならともかく十体ともなるとさすがにこちらも補助魔法なしではきつい。

 ちょうどエルドリアスの詠唱が終わった頃、一匹のミズモリトカゲがモネたちに向かって泡を吐いてきた。

 こちらに突撃を仕掛けてくるつもりだ。

 モネは走り出した。

 体が軽い。たったっと自分のではないような足音がする。


(やっぱ補助魔法ってすごいな)


 今まで前準備がないと弓だけで倒せない魔物はたくさんいた。でもこのパーティでならどんな魔物相手でもなんとかできそうだと思えてくる。

 モネはドクミズトカゲの泡の間を高速で移動していった。その動きに合わせてラウルの防壁がドクミズトカゲの攻撃を弾いてくれている。

 モネは着実に一匹、また一匹とドクミズトカゲに矢を打ち込んでいった。


「ふう」


 全てのミズモリトカゲを倒し終えたころ、ちょうど補助魔法の効果が切れた。


「よし。これでクエスト完了だ。三人ともおつかれさま」


 ラウルがみんなにそう呼びかけると、ソルムスが走ってモネたちの元へ来た。


「さっきのなんだ。すげえじゃねえか。モネとラウル、攻守の息ぴったりすぎだろ」

「ふっ、当たり前だ。俺とモネは互いを深ぁく分かり合ってるんだから。な、モネ?」

「分かりあってるというか、日々の練習の成果ですよね」


 モネはほぼ毎日のように、ラウルとの連携練習に付き合わされていた。


「それにすごいのはラウルさんです。私はただ走り回ってただけですから」

「だけどお前、ラウルの防壁が来るのを信じて魔物に突っ込んでいったんだろ。見た目はヒョロいくせに度胸あるぜ!」

「確かにモネさんて大人しそうに見えて、戦い方はけっこうワイルドっすよね」


 この後、しばらく豪傑だなんだと謎の讃えられ方をしたモネだった。


* * *


 放課後。モネは食堂の手伝いに勤しんでいた。

 ジャガイモの皮をむいているとロスカが話しかけてくる。


「モネちゃん昨日中庭のベンチで男の子と話し込んでなかった? なんか険しい顔してたけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫です。クラスメイトと少し話してただけですから」

「そう。ならいいんだけど」

「それにラウルさんのことを聞きたかっただけみたいですし」

「そうだったの。ラウル君は男女問わず憧れの的だものね」

「でも、あとからラウルさんが来たら逃げるように帰っちゃったんですよね、彼……」

「あら、じゃあラウル君のことはただの口実だったんじゃない? 本当はモネちゃんと二人きりで話したかっただけとか」

「私と……ですか」


 人気者のセイヴンが、わざわざ自分のような影の薄い人間と話したいと思うだろうか。そこはやっぱりラウルのことを知りたかったというのが本当だろう。もしかすると憧れが強すぎて、本人から直接聞くのは恥ずかしかったのかもしれない。

 とそんな話をしていると、食堂の営業終了間際に滑り込んできた学生たちがいた。


「はーらへったー!」


 大声を発しながら入ってきたのはソルムス、エルドリアス、そしてラウルの三人だった。


「すみません遅い時間に。まだ注文いいでしょうか」

「モネさんロスカさんお願いだから何か食べさせて。おれラウルさんに散々しごかれて……腹ペコで死にそうっす」


 今日はエルドリアスを特訓するとラウルから聞いていた。エルドリアスがどんなしごかれ方をしたかは、容易に想像できる。

 ソルムスも一緒ということは彼もエルドリアスの特訓に参加していたようだ。

 ソルムスはカウンター席に座り、先ほどからずっとキョロキョロ辺りを見回していた。


「おいエル、モネなんかどこにいんだよ」

「どこって、そこにいるじゃないっすか。ほらメガネの子」

「はい? あれが……モネ?」


 モネは一瞬メガネをはずした。


「え? おま……あ、え?!」

「ソルムスさん。もうそのくだり前にやってるんで。もういいっすよ」

「そうだな俺もやったからたぶん三回目だな。うん、もうそろそろいいな」

「いや何だよ三回目って。オレは初めてだぞ、あのモネ見るの」

「そんなことよりご飯なんとかお願いします。なんなら手伝いますから」


 おばあちゃんズはもう帰ってしまった後だったが、モネが調理して三人に食事を出してやった。

 三人は出された料理を勢いよくかき込む。そんな彼らを眺めていたモネに、ロスカが言った。


「モネちゃんも一緒に食べていいわよ。後片付けは私がやっとくから」

「いや、そんな大丈夫です。それに私はあとで作って食べたいものがありますから」

「なら今ちゃちゃっと作って食べちゃいなさいよ」

「でも……」 

「俺たちもあとで片付け手伝うぞ」

「そっすよ。モネさん一緒に食べよ!」

「さらあばいはまかせご! ばっばとくっひまえぼ!」


 そこまで言われたら(最後のはよく分からなかったが)モネも折れるしかなかった。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 モネはさっと食糧庫から食材をとって厨房に戻ってくる。

 どさっと調理台に置いたのは、藁の束だ。


「何すかそれ!?」


 男三人が立ち上がってモネの手元をのぞきこむ。

 モネがその藁の束をそっとほどくと、中から出てきたのは。


「豆?」


 モネがスプーンでその豆をすくうと、豆がネバーっと糸を引いた。


「成功した!」


 目を輝かせるモネ。さらにその豆を器に移して、ネバネバネバネバっとかき混ぜる。そしてパンの上にその豆と溶かしたチーズを乗せ、パクリとかぶりついた瞬間、ロスカとソルムスとエルドリアスがのけぞった。


「やだっモネちゃんたら」

「お、おま、おまえ何てもん食ってんだ!?」

「モネさんそんな変な豆食べたら呪われるっすよ! おれ浄化しましょうか!?」

「いえ、見た目はアレですけど。これは呪われてるわけじゃないんです」

「ウソつけおまえ、そんなのどう見ても呪われてるぞ!」

「大丈夫ですよ。これは東の果てにある伝説の島国、に伝わる珍味なんです。本で見て作ってみたんです」

「いやいや。オレもその島国の話は聞いたことあるけどよ。こんな食べ物聞いたことねえぞ。それ絶対作り方間違ってるって。やめとけよ腹こわすぞ。なあおいラウルもなんか言って――」


 みんながモネの奇行にのけぞるなか、なぜかラウルだけは静かに微笑んでいた。ソルムスがそんなラウルを怪訝な目で見つめる。


「なんでニタニタしてんだ。ラウル……」

「ふっ。俺はみんなよりモネのことをよく知ってるからな。これしきのことでは驚かないさ」

「なっ……おまえ。一体今まで何を見てきたんだ……!」

「それは俺とモネだけの秘密さ」

「えー! この豆以上にやばいやつなんすか!」

「おそらくお前たちが見たら卒倒するね」

「うわー! 気になるー!」

「あの、人を勝手に野蛮人にして話進めないでもらえますか。何度も言いますけどこれはナトゥという普通の食べ物で――」

「オレは感心したぞ、モネ。度胸のあるやつだとは思っていたが、まさかここまでとはな。オレの負けだ」


 だから誰も下手物食い耐久チキチキレースとかしてませんから。おいしいご飯食べてるだけですから。

 ただ食事をしただけなのになぜか勇者のように扱われて困るモネなのだった。


「ふふふ。四人とも仲がいいのね」


 ロスカが花のように笑った。


「そういえば、あなたたちも今度の校内戦には出るの?」

「はい、出る予定をしてます。そういえば、そろそろ事前エントリーと取材がはじまる頃ですね」


 食事を再開したラウルが答えた。


「取材?」

「校内誌に出場メンバーと、パーティの紹介が載るんですよ」

「まあそれは良いわね。それ私も買えるのかしら」

「もちろん。売店で売り出されるのでどなたでも購入できますよ」


 ラウルとロスカの話を聞いていたモネは恐る恐る尋ねた。


「ラウルさん。それってパーティメンバー全員の名前が載るんですか?」

「ん? それはもちろんそうだが」

「載せる名前って、偽名とかダメでしょうか?」

「偽名? どうしてだ?」


 モネはクラスメイトにラウルパーティに所属していることはバレたくないのだと伝えた。


「私なんかがこのパーティにいることが知れたら、ラウルさんの信者に八つ裂きにされると思うんです」

「お前はまたちっせーこと気にしてんだなあ! どーんと構えてりゃいいんだよそんなもん」

「いやソルムスさん、モネさんの言ってることもあながちウソじゃないっすよ。おれも言われましたもん。何でお前がラウルさんのパーティに? って。おれはあんま気にしないからいいっすけど、そういうのつらい人もいるんすよ」

「ただ偽名で参加は難しいだろうな。この学園の生徒しか出場できないものだし」

「そうですか……」

「だが、そのあたりのことはすでに対策を考えている」

「え?」

「俺はモネのメガネになると約束しただろ。その約束はちゃんと果たすさ。だから心配しないの」


 言いながらラウルはモネの頭に手を乗せわしゃわしゃっと撫でまわした。そんな二人を見つめていたソルムスが眉を寄せる。


「どういうことだよ? モネのメガネになるって。ラウルがメガネに変身するのか?」


 これにエルドリアスが吹き出した。


「ぷっ、まぁたソルムスさんは。そんなことあるわけないじゃないっすか」

「じゃあお前は知ってんのかよ、エル」

「え? いやそれはおれもよく知らないっすけど……あれでしょ、たぶんメガネから攻撃魔法出るようにするとか、そういうことっすよ」

「マジか! さすが天才と言われるだけのことはあるな!」

「「いや全然違います」」


 モネとラウルの声が重なったところで、またロスカがからからと楽しそうに笑ったのだった。

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