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牛の魔物2

 モネたち一行はミノタウロスが向かったと思われる学園へと道を引き返していた。

 モネは小走りで道を駆けながら、ミノタウロスを倒す作戦を考える。

 ソルムスと共闘したのは先ほどの一度きりだ。彼のことはまだよく分からないが、確かなのはとにかく猪突猛進タイプだということ。後先を考えたり、状況を判断するよりまず体が動いてしまうのだろう。

 なら、こちらもそれを踏まえたうえで戦略を考える。

 モネはエルドリアスに言った。


「もしまたミノタウロスに遭遇したら、次は最初から物理補助をおねがいします」

「あれ? 先に光じゃなくていいんすか? 光で撹乱してから物理で倒すんじゃ?」

「大丈夫。ソルムスさんがいるなら必要ないと思うので」


 四人でちゃんと連携練習をしたわけではない。ぶっつけ本番だが、まあなんとかなるだろう。

 モネは思考を周りに向ける。


(この感じ)


 近づいてきている。

 モネはハッとソルムスに視線を向ける。


「ソルムスさん、上!!!」


 ミノタウロスが木の上から降ってきたのと、ラウルの魔法防壁がソルムスの上に出現したのがほぼ同時だった。


「うわっと!」


 ラウルの防壁がミノタウロスの斧をはじく。ソルムスは弾き飛ばされたミノタウロスに向かい合った。


「出たな、牛ぃぃ! さあ来いやあ!」


 モネの想定どおりソルムスはミノタウロスを挑発してひきつけてくれている。おかげでミノタウロスを撹乱せずともじっくり急所を狙う準備ができる。

 モネはミノタウロスの急所が狙いやすい位置に移動をはじめる。あとはエルドリアスの詠唱が終わるまでソルムスが持ち堪えられるかどうか。


「おいおい、お前の拳はこんなもんか!? 牛さんよぉ!」

 

 ソルムスは嬉々として拳をくり出していた。ラウルの防壁のおかげでずいぶん余裕ができているようだ。先ほどは一撃で動けなくなっていたが、これならしばらくミノタウロスをひきつけておいてくれるだろう。


「モネさん!」


 その声の直後、モネの矢にエルドリアスから魔力が送られてきた。

 ミノタウロスはソルムスの攻撃を凌ぐので精一杯。モネは落ち着いて弓を構える。

 狙うは、ミノタウロスの眉間ど真ん中――。

 ギュン。

 引きしぼった弓から放たれた矢は、エルドリアスの補助魔法により威力を増していた。轟音とともにミノタウロスの眉間に吸い寄せられた矢は、見事ミノタウロスの眉間に当たる。そして矢はそのままミノタウロスの頭部を貫通した。ミノタウロスはびくりと硬直したかと思うと、断末魔をあげることもなくその場に倒れた。


「うおおお!」


 ソルムスとエルドリアスが雄叫びをあげる。モネがその光景をぼんやり眺めていると、ラウルが肩を抱き寄せてきた。


「やったなモネ! ミノタウロスを討伐したぞ」


 言いながらラウルにぐわんぐわん肩を揺さぶられ、ちょっと吐きそうになる。


「おい前らすげえな!」


 ソルムスがモネたちのところへやって来て言った。

 モネはラウルの腕から逃れつつ応える。


「ソルムスさんを囮のようにしてしまってすみません」


 するとソルムスはきょとんとした顔になって言った。


「なに謝ってんだ。前衛なんだから囮を引き受けるのは当たり前だろ。モネは細けえこと一々気にするやつなんだなあ。そんなんじゃ大きくなれねえぞ!」


 ばしっ、と背中を叩かれモネが危うく転倒しかけたのをラウルが助けてくれた。


「ソルムスおまえ、前衛を務めている自覚あったのか」

「おいおい。オレ以上に前衛らしい前衛はいないだろがよ」


 ぐわはは、とソルムスはまた快活に笑ったのだった。


***


 モネたちはミノタウロスの討伐をしたことで、かなり討伐成績を稼ぐことができた。さらに特別に報奨金もでた。学内クエストでは通常報奨金は出ないのだが、そこは魔神級の社交スキルを持つラウルが学園側にうまく報告してくれたおかげらしい。


 そして今回も、翌日にはラウルのパーティがミノタウロスを倒したというのが全校に広まっていた。


「ミノタウロスを倒しちゃうなんて、さすがラウル様よね!」

「今回はパーティメンバーを増やされたそうよ。一体どなたが入られたのかしら」


 みんな以前にもましてラウルパーティへの興味が膨らんでいるようだ。

 そんななか、モネはラウルのパーティに入っていることをまだ誰にも言っていなかった。周りの様子から気づかれてもいないようである。


(狩りの時にメガネを外すのは妙案だったのかもな)


 メガネの有無で別人を演じているおかげで、自分がラウルのパーティにいることは誰にも知られずにすんでいる。


「よかった」


 小さくつぶやくと、モネは席を立って廊下に出た。今日は午後から授業がない日だった。最近何かと忙しかったので、久しぶりに部屋でゆっくり過ごそう。

 そう思って陽の差し込む廊下を歩いていると、たったっと後ろから誰かかけてきた。


「ルオントさん」


 モネは一瞬その声に反応できなかった。学園内で自分の名を呼ぶものなど限られている。しかしその声はいつもの声ではなかった。


「ねね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 モネがおっかなびっくり振り返った先にいたのは、同じクラスのセイヴン・コスラフ。第二のラウルと言われる爽やかボーイだった。


「聞きたいこと……って私にですか」

「そうルオントさんと二人で話したいことがあるんだ。でもここだと話しにくいし裏庭に行かない?」


 クラスの人気者と話すなんて正直どこでも話しにくいけれど、と思いつつもモネはとりあえずセイヴンに従うことにした。



 裏庭に移動した二人は、適当なベンチに腰掛けた。座るなりさっそくセイヴンは「実は」と話をもちだす。


「僕見ちゃったんだよね。君がラウルさんたちと討伐に行くところ」

「え……」

「ああ、安心して。君はラウルさんのパーティメンバーだってこと知られたくないんだよね。見てればわかるよ。大丈夫誰にも言わない。僕と君だけの秘密だ」

「ちょっと待ってください。それは人違いでは……」

「君のその綺麗な髪は見間違うことはないよ。僕は会った女の子の容姿はみんな覚えてるから」


 セイヴンはモネの髪をじっとり見つめる。


「なかなか綺麗な髪だ。まあ聖女様とまでは言わないけど、誇りにしていいと思うよ」


 そう言って爽やかに微笑むセイヴン。彼としては良い意味で言ったつもりなのだろうけど。


(ものすごく上から目線で品定めされた気がする)


 それとも褒められ慣れてないので自分が卑屈な捉え方をしているだけだろうか。

 他の女の子たちに言わせれば、人気者に褒められたのだからありがたく思えと言われるかもしれない。

 

(でも)


 同じ人気者でも、ラウル・アルバーンならこんな言い方絶対にしないけれど。

 セイヴンはモネが固まってしまったのを見て慌てて話題を変える。


「ああ、ごめんね。つい話がそれてしまった。本題に戻ろう。僕が聞きたかったのは、君がラウルさんにどんなことを教わってるのかってことなんだ。僕、ラウルさんのパーティには入れてもらえなかったからさ。ラウルさんと同じパーティに入った君に話を聞きたかったんだよね」

「申し訳ないですけど、私魔法のことはそれほど詳しくないんです」

「そうなの? じゃあ君が知ってるラウルさんのこと教えてよ」

「どうしてそんなにラウルさんのこと聞きたいんですか?」

「僕、主席で高等科を卒業したいんだ。だから天才って言われてる人の技術とか行動とか、僕も取り入れたいなって思ってるんだよ」


 なら本人に直接聞いてほしいものである。他人のことをベラベラ人に話すのはあまり気分が良くない。


(面倒なことになったな)


 本音を言えば「そんなん知らん」と突っぱねたいところだが、相手の感情を気にしすぎる超繊細人間であるモネは、断ったり話を切り上げたりするのがとても苦手なのであった。


(こういうとき何ていえば)


 相手を不快な気持ちにさせず爽やかにこの場を去れるのだろうか。

 モネが頭の中で最適解をグルグル探していると、誰かにポンと肩を叩かれた。


「珍しいな。君がこんなところで歓談してるなんて」


 振り仰ぐと、翡翠のような澄んだ瞳と目が合った。


「あ、ラウルさん」

「こちらはお友達かな?」

「クラスメイトのセイヴン君です。ちょうど良かった彼が――」

「わー、ラウルさんに会えるなんて光栄だな。ぜひお話を伺いたいところですが、僕このあと用事頼まれてたんでした。残念ですが今日はこれで失礼します。じゃまたね、モネちゃん」


 セイヴンはそれだけ言うとそそくさといってしまった。


「楽しそうに彼と何の話をしてたんだい」

「ラウルさん。本当に私が楽しそうに見えましたか」

「おや。だってなかなかのイケメン君だったじゃないか」


 ニヤニヤしてくるラウルをモネは薄目で睨む。


(あなたがそれを言うか)


「私はイケメンなんかより魔物と二人きりの方がよっぽど楽しいです」


 ラウルはカラカラ笑った。


「じゃあ今から軽く魔物狩りに行こうと思うのだけど来るかい? お嬢さん」


 モネはふっと微笑んだ。


「聞くまでもないですよ」


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