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前夜祭

 学園祭。それは四日間にわたって開催される学園の一大イベントである。前夜祭にはじまり、三日間の校内戦をへて後夜祭で幕を閉める。高等科と研究課程合同での開催となる。


 そして今日は、いよいよ前夜祭。

 学園の通りには出店がところ狭しと並び、大そう賑わっていた。

 モネは自分の小屋に引きこもっていたのだが、先ほど訪ねてきたラウルに無理やり引きずり出され露店巡りをしているところであった。


「りんごパイとキッシュと、ああそれからドーナッツもう二つ追加で」

「ラウルさん買いすぎじゃないですか」

「こういうときは食べ物がたくさんある方が楽しいんだよ」

「そういうものですか」

「そういうものだ。それにあとでソルムスとエルドリアスも合流するから、いくら買っても食べ物があまるなんてことはないさ」


 しこたま食べ物を買い込んでいるラウルの後ろに突っ立っていると、なんだか足が痛くなってきた。


「先に中庭に行って席取っておいてくれるか」


 顔には出していなかったはずだが察してくれたらしい。モネはラウルからいくつか荷物を引き取って中庭に向かった。



 中庭は、普段と違ってたくさんのテーブルと椅子が用意されていた。学生たちはそこで各々が買ってきた食べ物を食べたり休憩したりしている。

 モネが空いているテーブルに荷物を置き席に座った直後、誰かに声をかけられた。見上げると、上級生と思われる女の学生三人がこちらを見下ろしていた。


「あなた、モネ・ルオントね」

「そうですが、何かご用でしょうか」

「さっきラウル様と一緒にいたでしょ。あなたがラウル様のパーティに入りこんだ一年ね」

「あなたみたいなのが、どうしてラウル様とパーティを組んでるの? いったいどんな手を使ってラウル様をだましたのかしら」


 すでに自分の名前を知っているということは、彼女たちは今日発売された校内誌を見てやってきたのだろう。


(やっぱりこうなるんだな)


 予想していたとおりの展開である。それにしてもわざわざ一人になったところを狙うとは用意周到というか何というか。今後もこういう輩につきまとわれると思うとうんざりするが、いまさら校内誌を取り下げてもらったところで遅い。ラウルも対策を考えてくれていると言っていたし、ここはなんとかやり過ごすしかなさそうだ。


「私はラウルさんを騙したりなんてしてません。むしろ、こちらが騙されたというか……」


 タランテラに擬態したり、一回だけ一緒に討伐と言って誘ってきたり、騙されたというならこちらの方だろう。だけど彼女たちがラウルとのそんな過去を汲んでくれるはずもなかった。


「なにそれ、まさか被害者面するつもり?」

「ほんと、ラウル様に面倒見てもらっておいてよくそんなことが言えるわね」

「そういうことじゃ……」

「あなた調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!」


 女の手が伸びてきてモネを突き飛ばそうとした。モネはすんでのところで避ける。体術はそれほど得意ではないが、モネは筋肉の動きで相手が次にどう動くかある程度読むことができた。

 ただ大勢に囲まれてしまえばこの限りではない。


(三人に囲まれる前に対処した方がいいな)


 モネはポケットから小瓶を取り出した。本当は使いたくない手だったが仕方ない。


「私を殴ると、あなたがたもタダではすみませんよ」

「はあ? あんたみたいなひょろひょろに何ができるっていうの」

「一年のくせに生意気よ!」


 女の一人が掴みかかろうとしてきたので、モネは小瓶の蓋を開け素早く女の鼻に近づける。すると女はエビがごとくのけぞった。


「うわ、くさっ! 何これ」


 瓶の中に入っていたのは数粒の豆。糸を引く豆だ。

 実はこの豆が魔物避けになると聞いたので試そうとポケットに入れておいたのだが、まさか魔物の前に人間に使うことになろうとは。

 豆の匂いにやられた女を見て、あとの2人もびくっと肩を震わせ後ずさっていた。しかしモネはそこで反撃の手を緩めない。すっと音もなく2人に近づくと素早く小瓶を鼻の高さに持ち上げた。


「ひゃ! うっ、くう!」

「……い、いや! やめっ……かはっ」

 

 三人が鼻を押さえ悶えているのを見つめながら、モネは今度は瓶を自分の鼻に近づけ、中の空気をすうっと吸い込んでみせる。


「私に触れると、この豆のように糸を引く体になりますよ」


 瓶の中の空気を吸いながらニヤァと妖しく微笑むモネを前に、三人は恐れおののいた様子で、我先にと逃げ去っていった。

 そんな彼女たちの後ろ姿を見つめながらモネが瓶の蓋を閉めたとき、後ろから押し殺したような笑い声が聞こえてきた。


「くくっくくくく。くはっ、あははははは」


 振り返ると両手に紙袋を抱えたラウルが涙目になって笑っていた。


「あーあ、助けに入ろうと思ったのに。俺の出番はなかったな」

「いつから見てたんですか」

「んー、わりと最初から?」


 モネが薄目で睨むと、ラウルはゴメンゴメンと言いながら紙袋をテーブルの上に置く。


「こんなことなら、先に渡しておけばよかったな」


 ラウルはモネに向き直ると、ポケットからあるものを取り出した。


「左手出して」


 モネが恐る恐る左手を差し出すと、ラウルは何やら取り出したものをモネの手首につける。


「……ブレスレット?」


 糸を編んで作られたブレスレットだ。光の加減で淡く銀色に輝いている。


「俺の魔力を込めた糸で編んだんだ。おまえの心身に危機が迫ったとき、魔力の乱れを感知して防壁が生成されるようになってる」

「そんなことできるんですね」

「まだ試作段階だけどな。でも魔術構成を解析されない限りまず突破されることはないし、相手が解析を試みてる間に俺が駆けつける」

「ありが――」


 と礼を言い切る前に、わしゃわしゃっと頭を撫で回された。


「俺がおまえを巻き込んだんだ。だから、礼なんて言わなくていい」


 別に巻き込まれたとは思っていなかった。渋々とはいえパーティに入ることを承諾したのは自分だ。何があったとしてもそれは自分の責任。だけどラウルは案外、真面目というか他人のことまで背負い込んでしまう人なのかもしれない。


「そんなこと、思ってくれなくていいのに」

「え?」

「いえ、何でもありません……大事に、します」

「もしまだ不安なことがあればまた対策を考えよう。何かあるか?」

「…………では、攻撃魔法が出るメガネもお願いできますか」


 ラウルがふっと吹き出す。


「残念。それは俺の専門外だ」


 モネがクスッと笑ったとき、遠くから声が聞こえた。


「あ、いた! モネさん、ラウルさーん!」


 エルドリアスとソルムスもやってきて、四人の前夜祭がはじまった。

 肉やら魚やらデザートまでてんこ盛りの料理が次々となくなっていく。

 大きな鶏の唐揚げを頬張りながら、ソルムスがラウルに尋ねる。


「そういや明日対戦するパーティってもう分かってんのか?」

「門のところにトーナメント表が出てただろう」

「そうだったのか。オレまだ見てねーや」

「あとでみんなで見に行きましょうよ! おれもまだ見れてないんす」

「そうだなモネも……ってどうしたモネ?」


 モネはその話に、一人青ざめていた。


「あのう、校内戦てもしかして対人戦なんですか?」

「そうだけど、知らなかったのか」

「てっきり魔物狩り競争なのかと……確か入学説明会でもそんなこと言ってましたし」

「ああ、それは決勝戦のことだな。決勝戦だけは最後に残った二つのパーティが、用意された魔物をどちらが先に狩れるか競うことになってる」

「へー! それってどんな魔物が出てくるんすか?」

「その年によって違うが、基本的には上級の魔物が用意されるはずだ」

「上級っつーことは、ミノタウロスくらいのやつってことだな」


 モネはそこで立ち上がった。


「私、お先にトーナメントを確認してきます」

「え? だからそれはあとで一緒に」

「トーナメントを勝ち上がらないと魔物狩りができないんですよね。だったらグズグスしていられません。早く対戦相手を確認して作戦を練らないと」

「あ、モネさん上級の魔物って聞いて火がついちゃったんすね!」

「わっかりやすいやつだなー! ははは!」

「うっ。悪いですか」

「いや、おまえのやる気が出て何よりだよ。だけど、まずはしっかり食べなさい。栄養を摂るのも準備のうちだぞ」


 ラウルに腕を引っ張られてモネは渋々座った。


 その後みんなでトーナメントを確認ししに行き、そこで解散となった。モネは、一人宿舎もとい小屋へ戻る。その途中、声をかけられた。


「モネちゃん」


 よく通る爽やかな声。


「セイヴン……君」


 モネが会釈すると、セイヴンにつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめられた。


「あの……何か?」

「ああいや、メガネをしてなかったから間違えたのかと思って。というかそんなことより、校内誌見て驚いたよ。モネちゃん校内戦に出るんだね。僕てっきり、君は出ないものだと思っていたから。ほら、ラウルさんのパーティにいることは隠していたでしょ?」

「まあ、成り行きで出場することになりました」

「そうなんだ……まあでも僕は君のこと応援してるよ」

「ありがとうございます」


 じゃね、と爽やかに手を振りセイヴンは男子寮の方へと消えていった。

 最近、セイヴンには何かと話しかけられるようになったのだが、モネはセイヴンがどうしてそんなに話しかけてくるのかいまだによくわからなかった。だからか、なんだか少し怖い。セイヴンは爽やかな好青年なのだが、微笑んでいるときも目が笑っていない感じがするのだ。とはいえ特別嫌がらせをされるわけでもないので、邪険にすることもできなかった。


(まあそのうち飽きてくれるか)


 モネは頭の中からセイヴンを追い出し、トーナメント相手のことを考えながら宿舎もとい小屋へ帰った。



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