*20*
穏やかな日々が戻ってきた。
「シェーラ。お土産だよ」
反乱軍討伐から戻ってきた王子は少女の元に土産を持参した。
渡された小箱をシェーラはちらりと見る。
「開けてごらん」
そう言われ、少女は箱を開ける。中には緑の石がついた髪飾りが入っていた。
「シェーラの黒髪に映えると思って、つい手にしてしまったよ」
つけてあげよう、と王子はその髪飾りを少女の髪にそっと挿した。
「ああ、いいね。似合うよ」
「・・・お兄様。私には無いのかしら?」
少女の隣に座っていた王女が訴える。
「もちろん。お前にもあるよ・・・だが髪飾りより実用性のあるものが良いだろう?」
きらりと王女の目が輝いた。
「お兄様!」
「ああ、先日の魔族との戦いで剣が駄目になっただろう?部屋に届けさせたから後で確認するといい」
「ありがとうっお兄様!」
抱きつかんばかりに王女は喜んだ。
「延期になっていた成人の儀も一月後と決まったことだし、もう少し淑女らしくして貰いたいと皆思っているのだけれどねえ」
「あら、それはお姉さまにお任せしていますもの。私はドレスや扇より剣を持つほうが性に合っているのですわ」
男女問わず文武両道のお国柄。王女の有様に眉を潜める者も少数だ。
「シェーラも勇ましい私が好きよね?」
少女は少し間を開けた後、首を縦に振った。
「・・・嫁の貰い手が心配だ」
「あら、私よりお兄様のほうが先ですわ」
そこで悪戯っぽい笑みを王子に向けた。
「シャディルアよりお見合いの話が舞い込んでいること存じ上げておりましてよ」
「・・・どこで聞きつけてくるのだか」
「ふふ、ついにお兄様もご結婚ですかしら。シャディルアのサピエンサ王女は聡明な方で諸国に名を知らしめていらっしゃる方。お会いするのが楽しみです・・・ああ、どうぞご心配ならないで、お兄様。シェーラのことは私がしっかりとサポート致しますわ」
ねえーと少女に同意を求めてくる。
「そう先走らないでおくれ。サピエンサ王女は確かにいらっしゃることになっているが、外交でいらっしゃるのだから」
「そういうことにしておいてさしあげますわ。シェーラはシャディルアという国を知っていて?」
少女は首を振った。
「シャディルアは優秀な癒し手を多く輩出しているの。その中でもサピエンス王女は特に力の強さで有名で、少し大げさだと思うけれど死人さえも生き返らせると言われているわ」
その言葉に少女の肩がぴくりと揺れた。
「さすがに本当に死人を生き返らせることは出来ないだろうけれどね。シェーラも王女に興味があるかい?」
少女はじっと王子を見つめた。
王女は外交で来訪するという。通所そんな相手に少女は顔をあわせない。
「そうね、未来のお義姉様におなりになるかもしれないですし」
「ユーリア・・・」
ふふふ、と王女が笑う。
「きっとアルカーナの王女よりずっと素敵な方よ。だから安心して」
どうやらリリアーナ王女を仇敵認定したらしい。
「リリアーナ王女と意気投合していたように見えたけれど?」
「冗談ではありませんわっ!あのように口先だけの方と一緒にしないで下さいませ!」
憤懣やるかたないと腰に手を当てる王女に王子は苦笑した。
少女は思う。
死人さえも生き返らせる・・・それはどんな奇跡だろうか、と。