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神保町の古本屋2階でヒュッゲ満喫していたら、北海道の父と沖縄の母のせいで俺の『自己流相殺術』がバグり始めた件について  作者: 風風風


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8/13

第8話【 さぼうるの誘惑と、優雅なる現実逃避 】

母は沖縄で、父は北海道で、

それぞれ

リモートワークしている。


妹は、

未だ実家の都営アパートで暮らしている。


最近、

「友達とシェアハウスして部屋を借りる」

とか、

「狭くてもいいから、一人で借りようかなぁ」

などと、言っている。

餃子の満足感も冷めやらぬ翌日、

零がベッドでスマホをいじっていると、

階下から祖母の声が聞こえた。


「零、お客さんから

『さぼうるって、まだあるの?』って

 聞かれたんだけど、あんた知ってる?」


零はガバッと起き上がった。


さぼうる。


神保町の喫茶店の中でも別格の存在、

昭和の空気をそのまま閉じ込めたような

レンガ調の隠れ家。


学生時代、

原稿に行き詰まるたびに逃げ込んだ

思い出の店だ。


(あそこ、まだあるのか……いや、

 あるに決まってる。

 あそこがなくなったら神保町じゃない)


零は階段を下り、祖母に

「あるよ、駅からすぐ」

と教えてやると、

祖母は

「じゃあ案内してあげたら?」

とさらっと零を巻き込んできた。


(外出、しかも接客の延長……。

 だが、これは

 「地域の生き字引」としての社会貢献だ)


零は脳内電卓を弾く。


「無職が、

 昼間から出歩くという罪悪感、

 マイナス40。

 だが、

 観光案内という高度な地域貢献、

 プラス120。

 しかも目的地はさぼうる、

 つまり実質『取材』でもある。

 作家志望としての職務、

 プラス50を追加計上!」


見事な収支で赤字を吹き飛ばした零は、

意気揚々と客を先導し、

路地を抜けていく。


目当ての店は、

変わらぬ姿でそこに建っていた。


レンガ調の壁、

年季の入った看板。零の胸に、

じんわりと懐かしさがこみ上げてきた。



【 クリームソーダと、決算の総仕上げ 】


薄暗い店内に足を踏み入れると、

隠れ家めいた空気が零を包んだ。


案内した客は

「わあ、いい雰囲気」と喜び、

奥の席に腰を下ろす。


零は「ごゆっくり」と一礼し、

自分もついでにとカウンター席に座った。


(せっかく来たんだ、

 これも「取材」の一環だ)


メニューを開くと、

目に飛び込んできたのは

名物の7色クリームソーダと、

看板メニューのピザトースト。


零は迷わず両方を注文した。


運ばれてきたクリームソーダは、

鮮やかな青色。


アイスが

てっぺんでぷかぷか浮かぶ様は、

何年経っても変わらない。


零はストローを咥え、目を細めた。


「うまい……。

 この甘さ、このレトロな雰囲気、

 間違いなく仕事に必要な

『インスピレーション補給』だ」


ピザトーストにかぶりつきながら、

零は脳内で最終決算を始める。


「クリームソーダとピザトーストの出費、

 マイナス30。

 だが、

 案内役としての社会貢献プラス120、

 作家としての取材活動プラス50、

 さらに

 懐かしい店の変わらぬ姿に触れた

 精神的満足、プラス80……。

 合計、圧倒的な黒字だ!」


案内した客が

「ありがとう、助かったよ」

と笑顔で店を出ていくと、

零は満足げに頷いた。


パソコンは

今日も開かれることはなかったが、

零の心には確かな充実感が満ちていた。


神保町の喫茶店の片隅で、

彼はまた一つ、

見事な帳尻を合わせたのだった。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

明日、20:40 に、第9話を投稿します。

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