第7話【 掃除機のコードと、思わぬ発掘物 】
母は沖縄で、父は北海道で、
それぞれ
リモートワークしている。
妹は、
未だ実家の都営アパートで暮らしている。
最近、
「友達とシェアハウスして部屋を借りる」
とか、
「狭くてもいいから、一人で借りようかなぁ」
などと、言っている。
昼過ぎ、祖母が
「たまには部屋の掃除でもしなさい」
と釘を刺してきたため、
零は渋々
2階の自室に掃除機をかけることにした。
「……はいはい、わかったよ」
コードを伸ばし、
ベッド下に
掃除機のノズルを突っ込むと、
ガコンと何かに引っかかった。
引っ張り出してみると、
埃をかぶった古いアルバムだった。
表紙には子供っぽい字で
「かぞく」と書いてある。
(これは……たしか小学生の頃、
夏休みの自由研究で作ったやつだ)
ページをめくると、
まだ本州で
家族全員が一緒に暮らしていた頃の
写真が並んでいた。
父が今よりずっと若く、
まだ
北海道と東京を行き来する
生活スタイルになる前の一枚。
母が沖縄にハマる前、
近所の商店街で
買い物袋を提げている一枚。
小さい妹が零の後ろに隠れて
笑っている一枚もあった。
(そういや、
親父が完全に北海道拠点になったの、
俺が高校生の頃だったか。
母さんが沖縄に本格移住したのは、
もっと後だったよな)
零はしばし手を止め、
懐かしさに浸った。
「……掃除、中断して
アルバム鑑賞という名の
『家族史のアーカイブ整理』に
切り替えたわけだが、
これは立派な文化的作業と言える。
プラス60は妥当だろう」
見事なこじつけで
掃除の中断を正当化した零は、
そのままベッドに寝転がり、
アルバムを最後まで
じっくりと眺め続けるのだった。
【 掃除機の放置と、時間泥棒からの帳尻合わせ 】
気づけば1時間近く、零は
アルバムを片手に
ぼんやりと物思いにふけっていた。
掃除機は電源を入れたまま、
部屋の真ん中で放置されている。
「……いかん、完全に脱線した」
零は慌ててアルバムを閉じ、
掃除機のスイッチを切った。
結局、
部屋の埃はほとんど吸い取られていない。
(さて、これをどう相殺するか)
零は脳内電卓を再起動させる。
「掃除の実質的な進捗ゼロ、
家事怠慢マイナス80。だが、
家族の歴史を振り返るという
精神的な棚卸し作業、
これは無形の資産形成だ。
プラス70……
いや、正直ちょっと足りないな」
零は苦し紛れに、
床に散らばった埃を
数箇所だけティッシュでつまみ取り、
「部分的清掃実施」という
こじつけをひねり出した。
「これでプラス20追加。
合計マイナス80に対してプラス90、
かろうじて黒字!」
階下から祖母の声が響く。
「零ー、掃除終わった?」
「あ、うん、まあまあ……」
零は言葉を濁しながら、
アルバムをそっと
本棚の隅にしまい込んだ。
今度また暇な時に、
ゆっくり見返そうと決めながら。
窓の外では、
夏の日差しが古書店街を
じりじりと照らし続けていた。
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明日、20:40 に、第8話を投稿します。




