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神保町の古本屋2階でヒュッゲ満喫していたら、北海道の父と沖縄の母のせいで俺の『自己流相殺術』がバグり始めた件について  作者: 風風風


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第5話 【 仏壇の線香と、朝の妙な殊勝さ 】

妹は、

未だ実家の都営アパートで暮らしている。

最近、

「友達とシェアハウスして部屋を借りる」

とか、

「狭くてもいいから、一人で借りようかなぁ」

などと、言っている。

朝、零が寝ぼけ眼で1階に降りると、

祖母が

仏壇の前で静かに手を合わせていた。

線香の細い煙が、

古書の匂いに混じって漂っている。


「ばあちゃん、おはよう」


「おはよう。……

 今日はじいちゃんの月命日だからね」


零は少し居住まいを正し、

祖母の隣に腰を下ろすと、

見よう見まねで手を合わせた。


祖父の顔は、正直あまり覚えていない。

物心つく前に他界したこともあり、

記憶にあるのは仏壇の写真の中の、

少し照れたような笑顔だけだ。


「……よし」


手を合わせ終えると、

零は珍しく

神妙な面持ちのまま立ち上がった。


(これは、

 普段のグータラとは一線を画す、

 由緒正しき「先祖供養」だ。

 無職だろうとなんだろうと、

 こればかりは怠るわけにはいかない)


零は脳内電卓を静かに起動する。


「線香をあげ、手を合わせた、

 家族としての責務プラス100。

 しかも

 二度寝せずに1階まで降りてきた

 早起き努力、プラス30も追加だ」


祖母は湯呑みを手に、ぽつりと呟いた。


「じいちゃんがいたら、

 あんたのことどう思ったかねぇ。

 まあ、優しい人だったから、

 案外

『好きにやれ』って

 言ったかもしれないけど」


零はその言葉に、

なんとなく胸の奥が

くすぐったくなるのを感じながら、

「だといいけどな」と小さく笑った。


今日の零は、いつもより少しだけ、

殊勝な朝を過ごしていた。



【 妹のひょっこり訪問と、聞こえなかったふりの相殺 】


昼過ぎ、店の扉が開く音がして、

零がひょいと階段から顔を出すと、

そこには私服姿の妹が立っていた。


「あ、零は普通に降りてきてるんだ。珍しい」


「今日は特別な日だからな……って、

 なんでお前ここにいんの。大学は?」


「午後から。ばあちゃんの様子見に来ただけ」


妹は祖母に短く挨拶すると、

レジ横の椅子にちょこんと座り、

スマホをいじり始めた。

零は気まずさを誤魔化すように、

階段の途中で立ち止まったままだった。


「……そういや、部屋どうすんの?

 シェアハウスの話」


零は思わず口を滑らせてしまい、

しまったという顔をした。


妹は顔も上げずに、素っ気なく答える。


「まだ決めてない。というか、

 お兄ちゃんに聞かれると思わなかった」


零は気まずさを隠すように、

脳内で急いで相殺を始める。


「うっかり妹に関心を示してしまった、

 いつもの塩対応ポリシー違反、

 マイナス50……。だが待て、

 これは

『家族としての最低限の気遣い』という

 高尚な行為でもある。

 プラス80で相殺完了!」


妹はスマホから顔を上げないまま、

ぼそりと付け加えた。


「……まあ、狭くてもいいから

 一人の方が気楽かもね」


零はその言葉に何と返すべきか

一瞬迷ったが、

結局「そっか」とだけ言って、

二階へと引っ込んでいった。

階段を上りながら、

零は妹の横顔が、

いつもより少しだけ

疲れているように見えたことを、

誰にも言わず

そっと胸にしまっておいた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

明日、20:40 に、第6話を、投稿します。

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