↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神保町の古本屋2階でヒュッゲ満喫していたら、北海道の父と沖縄の母のせいで俺の『自己流相殺術』がバグり始めた件について  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

第4話【 祖母の秘密兵器と、罪悪感の大幅ディスカウン 】

妹は、

未だ実家の都営アパートで暮らしている。

最近、

「友達とシェアハウスして部屋を借りる」

とか、

「狭くてもいいから、一人で借りようかなぁ」

などと、言っている。

神田神保町の古本屋の2階。

梅雨明け間近のじっとりした空気の中、

保坂零はベッドの上で、

コンビニの厚焼き玉子サンドとメロンパンを両方たいらげ、

満足げに腹をさすっていた。


「……いや待て。朝からこれは、

さすがにカロリーの暴走特急だな」


机の上のノートパソコンは、

今日もまっさらな画面のまま零を見つめている。

作家を目指して早数年、

書けたのは頭の中の「収支報告書」だけだ。


(よし、精査しよう。

玉子サンド、マイナス40。メロンパン、マイナス60。

合計マイナス100。

しかも今日は一文字も書いていない、

無職としての機能不全マイナス50……)


天井を見上げて赤字に青ざめかけた零だったが、

ふいに1階から祖母の声が響いた。


「零ー、お客さんに

『稀覯本の棚、詳しい人いますか』

って聞かれたんだけど」


零はガバッと跳ね起き、

パジャマのまま階段を駆け下りた。

古書の知識だけは、

無駄に蓄えてきた自負がある。

10分ほど客と話し込み、

上機嫌で店を送り出すと、

祖母が「助かったよ、あんた」

とレジから顔を上げた。


(きた……! これは労働だ。

しかも専門知識を要する高度労働!

プラス150は堅い!)


零は階段を上りながら、

脳内電卓を高速で叩く。


「玉子サンドとメロンパンのマイナス100、

無職の機能不全マイナス50、

あわせてマイナス150。

対する稀覯本トークのプラス150。

……相殺完了、収支トントン!」


さらに追い打ちをかけるように、

祖母が奥から「お礼」と称して

あんみつを差し入れてくれた。

甘味という名の新たな負債が

発生しかけたその瞬間、

零はニヤリと笑う。


「これは労働の対価として支給された

『役員報酬』だ。

摂取カロリーにはカウントしない、

決算の枠外案件!」


見事なこじつけで、

あんみつすら黒字化に組み込んだ零は、

満足げにあんみつをすする。

パソコンの画面は相変わらず白いまま

だったが、今日もまた、神保町の2階で

華麗な帳尻合わせが完成したのだった。



【 妹からの奇襲LINEと、返信スタンプ戦略 】


あんみつを食べ終えた零のスマホが、

ピロンと鳴った。妹からのLINEだ。


『ねえ、シェアハウスの内見

行ってきたんだけど、

キッチン共用とか無理かも。

やっぱり一人暮らし用の

狭いマンション探そうかな。

でも家賃考えると躊躇する』


零は麦茶を一口飲みながら、

画面を眺めた。


(……これは、返信次第で

メンタルの収支が大きく変動する案件だ。

慎重に行こう)


もし普通に「いいと思うよ」などと返せば、

「じゃあどこがいいと思う?」

「一緒に見に来てよ」と会話が発展し、

家から出ることを要求されかねない。

それは避けたい。だが完全無視すれば

「既読スルーとかありえない」と

後日ネチネチ言われるリスクがある。


零は熟考の末、

「うんうん、わかる」というテキストと、

うさぎが深くうなずくスタンプを1個だけ

選んで送信した。


(この『共感してる感は出しつつ、

実質何も言っていない』返信……

我ながら完璧な塩梅だ。

会話の発展を防ぎつつ、

既読スルー扱いも回避。プラス80!)


送信後3秒でスマホを伏せ、

零はベッドに寝転がった。


「よし。

玉子サンドとメロンパンのマイナス100は、

稀覯本トークのプラス150と、

今の妹対応プラス80で、もはや大幅な黒字だ。

あんみつはカウント外だから、実質……

今日の俺、

めちゃくちゃ働いてる人間じゃないか?」


窓の外では、

古書店街特有の紙とインクの匂いが、

夕方の風に混じって漂ってくる。

零は白紙のノートパソコンに

ちらりと目をやったが、

「今日は収支報告で十分な仕事をした」

と結論づけ、そっと蓋を閉じた。


1階では祖母が「零、晩飯は何がいい?」と

呼びかけている。

零は「なんでもいいよー」と

気の抜けた声で返しながら、

心の中では今日も静かに、

そして華麗に、

赤字ゼロの決算書を締めくくっていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

明日、20:40 に、第5話を投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。