第12話 掃除機のコードと、思わぬ発掘物
「今を幸せに生きる」をモットーに、
定職に就かず、
暴飲暴食や爆買いなど欲望のままに
日々を
謳歌する26歳の主人公の日常です。
どんなに羽目を外しても、
彼独自の
相殺処理に着想を得た「自己流相殺術」で
チャラにできる
という独特なマイルールを持って自由に
生きています。
昼過ぎ、祖母が「たまには部屋の掃除でもしなさい」と釘を刺してきたため、零は渋々2階の自室に掃除機をかけることにした。
「……はいはい、わかったよ」
コードを伸ばし、ベッド下に掃除機のノズルを突っ込むと、ガコンと何かに引っかかった。引っ張り出してみると、埃をかぶった古いアルバムだった。表紙には子供っぽい字で「かぞく」と書いてある。
(これは……たしか小学生の頃、夏休みの自由研究で作ったやつだ)
ページをめくると、まだ本州で家族全員が一緒に暮らしていた頃の写真が並んでいた。父が今よりずっと若く、まだ北海道と東京を行き来する生活スタイルになる前の一枚。母が沖縄にハマる前、近所の商店街で買い物袋を提げている一枚。小さい妹が零の後ろに隠れて笑っている一枚もあった。
(そういや、親父が完全に北海道拠点になったの、俺が高校生の頃だったか。母さんが沖縄に本格移住したのは、もっと後だったよな)
零はしばし手を止め、懐かしさに浸った。
「……掃除、中断してアルバム鑑賞という名の『家族史のアーカイブ整理』に切り替えたわけだが、これは立派な文化的作業と言える。プラス60は妥当だろう」
見事なこじつけで掃除の中断を正当化した零は、そのままベッドに寝転がり、アルバムを最後までじっくりと眺め続けるのだった。
【掃除機の放置と、時間泥棒からの帳尻合わせ】
気づけば1時間近く、零はアルバムを片手にぼんやりと物思いにふけっていた。掃除機は電源を入れたまま、部屋の真ん中で放置されている。
「……いかん、完全に脱線した」
零は慌ててアルバムを閉じ、掃除機のスイッチを切った。結局、部屋の埃はほとんど吸い取られていない。
(さて、これをどう相殺するか)
零は脳内電卓を再起動させる。
「掃除の実質的な進捗ゼロ、家事怠慢マイナス80。だが、家族の歴史を振り返るという精神的な棚卸し作業、これは無形の資産形成だ。プラス70……いや、正直ちょっと足りないな」
零は苦し紛れに、床に散らばった埃を数箇所だけティッシュでつまみ取り、「部分的清掃実施」というこじつけをひねり出した。
「これでプラス20追加。合計マイナス80に対してプラス90、かろうじて黒字!」
階下から祖母の声が響く。
「零ー、掃除終わった?」
「あ、うん、まあまあ……」
零は言葉を濁しながら、アルバムをそっと本棚の隅にしまい込んだ。今度また暇な時に、ゆっくり見返そうと決めながら。窓の外では、夏の日差しが古書店街をじりじりと照らし続けていた。
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来週の日曜日の20:40 に、第13話を投稿します。




