表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これが恋なら終わってる  作者: たろさん
第一章 出会いは何かしらの始まり
PR
9/14

第9話 魅惑

俺の視点、握手から始まります。

 ちっちゃくて、柔らけぇ。


 それでいて、あったかい。真っ直ぐな瞳は、俺をしっかりと見つめている。


 出された手を握ったとき、彼女はまた静かに笑った。

 これは現実ではない。夢だと思った。でも、彼女は存在してるし、俺は脇の下に汗をかいている。


「部屋を、見るか」


「はい」


 俺は彼女が使う部屋へ案内した。


「ベッドは新品だし、机も使ってない」


「わあ」と彼女の口から感嘆の声が漏れ出る。


「軽く掃除はしてあるから、好きに使って」


「ありがとうございます」


 彼女はベッドに座り、手触りや弾みを確かめた。まるで、子どものようにはしゃぐ姿に、少し微笑ましく感じた。


「ついでに、俺の方も見る?」


 何のために? つい口から出てしまったが、誰も見たくねえよな。


「はい、お願いします」


 彼女は迷うことなく、返事した。なぜだ。


 すぐ隣の部屋のドアを開け、彼女を招き入れる。俺以外に人が入るのは、この子が初めてだな。彼女はきょろきょろと見渡し、何かを探しているようだった。


「あの、それしかないんですか? 着る服」


 俺が今着てるのは、くたびれたワイシャツにスラックス。

 さっきのあいさつ回りと、不動産屋へ行ったときと同じ格好だ。


「別に問題ないだろ。あと、仕事で着る作業着ぐらいだな」


「部屋着とか、よそ行きは?」


「家にいるんだから、シャツとパンツで充分だ。外なんか出ねえし」


 彼女は、ちょっと困ったような顔をしている。


「いえ、あの変じゃないけど、これからも私と出かけるとき、それですか」


 これからも、俺と出かけることなんかあるんか? 一緒に出かけたいのか。


「……嫌か?」


 彼女は小さく頷いて「少し」と答えた。


「じゃあ、選んでくれるか。あんたが好みのやつ着るから」


 彼女の顔が明るくなった。そんなにスラックスが嫌なのか?


「それなら、これから買い物行くので付き合ってくれますか」


「え、今から行くの?」


 行きたくねえな。でも、悪いよな。ああ、出るのめんどくせえ。


「嫌そうなので、ひとりで行ってきますね。生活用品、買っておきたいので、ついでにと思ったんですけど」


 彼女はほんの少しムスッとして、俺を見ている。見るな、そんな目で見るなって。


「では、バスで行ってきます」と、彼女はリュックをかついで部屋を出ていった。


 悪いことしたとは思ってる。でも、行きたくないが勝っている。

 それに、女の子と歩いているところを会社のもんに見られたらと思うと、気が気でない。


 俺は女性と交際したことが、ほとんどと言っていいほど、ない。

 興味がないというわけでもないが、同年代の他の奴らみたいにがっつくことはなかった。


 女友達はいたが、それ以上に発展することはなかった。もちろん、告白したこともないし、されたこともない。

 ただ、性体験はある。でも、それは風俗だけでの話だが。


 彼女には、俺のすべてを話すつもりだ。

 すべてと言っても、できる範囲で。彼女が嫌がるなら、それは仕方のないことだが、一緒に生活していく上で、必要ではないかと考える。


 彼女もまた、自身のことを話してくれたら嬉しいのだが……。



 彼女が出て行って、2時間は過ぎている。

 さすがに、時間がかかりすぎではないか。迷子にでもなっているのでは。

 やっぱりついて行けばよかったか。連絡すらないから怒っているのかもしれないが、迎えに行こう。


 俺は小さなハンガーラックの下にある引き出しから、洋服をひっぱり出した。

 犬のようにクンクンと嗅いで、カビ臭くないかを確かめる。


 これなら、あの子も嫌がらないだろう。もらいもんだが、今日は頼むぞ。


 

 アパートを出て、辺りを見回すが彼女の姿はない。

 そもそも、バスになんか乗らなくたって歩いて行ける距離だ。近道使えば、もっと早い。行先は言ってなかったが、たぶんあそこだろう。一番近くの店と言ったら、そこしかない。


 ドラッグストア・スーパー・衣料品店が立ち並ぶ場所は、大通りに面している。

 どの店も規模は小さいが、品物は充実している。仕事帰りに立ち寄り、なるべく休みの日に行かなくてもいいようにうまく買い物をしている。


 土曜の午後だから、多少は混むかもしれない。

 その中で、あの子を見つけられるだろうか。いや、見つけなければ帰れない。


 細い路地を通り、寂れた公園を過ぎれば、すぐ……いた。


 公園のブランコに座る彼女の姿があった。

 脇には、買ったと思われる大きなビニール袋がふたつ。背中には、ぱんぱんに膨らんだリュックをかついでボーっとしている。


 何してんだよ、あいつは。


「おい、帰るぞ」


 公園の入り口から声をかけると、気づいた彼女はこちらを見た。


「だれ?」


「俺だよ、わかんねえのか」


 ブランコの方に近づいていくと、彼女の顔がこわばった。まさか、怒られるとでも思ったのか?


「趣味悪っ」


「は? 今、なんて言った」


 彼女は嫌そうな顔で俺の胸と顔を交互に見た。


「その服、どうしたの。変だよ」


 タメグチかよ。さっきまでとは、なんか雰囲気が違うような。


「おお、これな、会社の同僚からのもらいもん。サイズ間違えたとかで、無理やり押し付けられてな。そんなに変か?」


 色か、それとも形か。この、フードがダメなんか?


「桃色って、なに? 全然、似合ってない。ありえないんだけど」


「てか、おまえ、なにその喋り方。ほんとは、そんなヤツだったのか?」


 本来の姿がギャル? みたいだとしたら、なんか嫌だわ。喋りだけで判断するのは偏見かもしれねえが、俺は嫌だ。


「荷物持ってよ。重いんだから」


 彼女は、ほっぺたを膨らませながらムスッとしたが、とてもじゃないがカワイイとは到底思えなかった。むしろ、怒りさえ覚える。


「うるせえな、早く帰るぞ」


 俺はビニール袋を乱暴につかんで、彼女には目もくれず公園を後にした。

次回は、彼女の視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ