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これが恋なら終わってる  作者: たろさん
第一章 出会いは何かしらの始まり
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第8話 待望

彼女の視点、トイレから始まります。

 トイレきれい。


 まめに掃除しているみたい。

 上の棚には、結構な量のトイレットペーパーが積んである。

 ゴミ箱が無いから、あとで買ってこようか。でも、あのひと、嫌がるかな。


 ルームシェアなんて言ってはいたけど、家賃払えないなら、居候だよな。

 貯金は少しあるから、それで間借りに。まあ、名称なんてどうでもいいか。


 用を足して出ようとしたところ、やっちゃんから電話が来た。


「もしもし、今トイレなんだけど」


 どうしても小声になってしまう。


「締め出し食らったのか」


「違うから。今のところは順調。で、なに?」


「急に心配になってな。おまえ、このままだと居候だなと思ってよ」


 やっぱり、よっちゃんもそう思うか。


「せめて間借りにならないかな。ほら、ルームシェアって仲良くしないといけないみたいなところあるじゃない? だから、そういうの得意じゃないし」


「まあ、好きにしろ。他に何か困ったことあるか」


「特には。あ、相手のひと、ずっと表情が硬いんだけど、どうしたらいいかな」


「そんなの、おまえが笑えばいいだけだろ。おまえの笑った顔は()()()があるって、マナーの紳士が言ってたぞ」


『ネコチャーン』に月一でやって来るマナー通、私たちの間ではマナーの紳士という名で呼ばれていた。その人は、従業員や客を観察し、気になるところがあればだれにでも耳打ちしていた。

 私の場合は、「また来る」だったけど。


「破壊力ってどういうこと?」


「さあな。かたくなった気持ちがほぐれるってことだろ。とにかく、作り笑顔でもいいから笑ってみろ」


「うん、わかった。切るね」


 心配性の性格は相変わらずだけど、話ができてホッとした。


 トイレから出ると、あのひとがテーブルに顔を伏せていた。何かブツブツつぶやいているのが聞こえる。


「……ふたりに……他人……ながたに……はぁ~まいったな」


「何か悩み事でも?」


 私が声をかけると、彼は「えっ!」と大きな声を出して飛び起きた。

 すごく驚いたようで、目を大きく見開き、怯えたような表情をしている。


「いや、これからどうしようかと」


 こんなときに笑いかけるって、どうなんだろう。


「とりあえず、お昼ごはんにしませんか?」


 目の前の彼は、口をあんぐりと開け、私を凝視したまま動かない。

 顔がぎこちなかった?


「……あ、ああ、いいね。そうしよう……」


 彼は咄嗟に顔を背けた。

 なんとなく、頬が少し赤くなっていたように見えたが、気のせいなのだろうか。



 11時半過ぎ、ふたりでカップ麺をすすっていた。


「こんなんしかなくて、すまんな」


「いえ、おいしいですよ」


 私は増量ワカメラーメンを、彼は白だしキツネうどんだった。


 何かを作ろうにも、冷蔵庫には食材がほとんどなかった。調味料はひと通り揃っているようだが、開栓してあってもほとんど使用していないようだった。


「食い終わったら、あいさつ回りでも行くか」


「そうですね。あ、それが終わったら、お部屋見てもいいですか」


「そうだ、荷物そのまんまだったな。ごめんな、気が利かなくて」


 彼は、申し訳なさそうな顔で謝ったけど、私はそんな顔は見たくないと思った。

 どうせなら、笑い飛ばすくらいの勢いで言ってほしかった。


 昼食後、私たちは一階の大家さんの部屋に出向いた。


「今日から野中さんのとこでお世話になります、町家です。よろしくお願いします」


「あら、こんなに若い子どこから連れて来たの?」


 大家の福子さん。パーマがきつくて、見た目は同級生の母ちゃんみたいな人だ。


「いや、遠い遠い親戚の子で、就活中で困っていたもんだから。それで」


 うわ、このひと、ウソつくんだ。でも、話を合わせなといけないよね。


「え~、ほんとにぃ?」


 福子さんは疑いの目で彼を見ている。


「そうなんです。かれ……おじさんに相談したら、部屋が空いてるからいいよって」


「ははっ、いい子だから、おとなしくしてると思うんで、どうかよろしく」


 彼はそう言って、頭を下げた。私も慌てて頭を下げたが、本当にこれでよかったのだろうか。



 大家さんちのすぐ隣は留守だったが、大学生が住んでいるらしい。

 その隣は、単身赴任中のサラリーマン。そのすぐ上は、専門学生。

 あまり接点はなさそうだけど、住みづらくならないように、あいさつだけはしっかりしないと。


 そして、最後の部屋。彼の部屋の隣には事実婚カップルが住んでいるらしいが、見かけたことがないらしい。いつも静かで、住んでいるのかも怪しいとのことだった。


 彼の部屋に戻って、一息ついた。はじめての部屋なのに、なぜか落ち着く。


「あの、改めまして、よろしくお願いします」


 私は手を出し、握手を求めた。すると、彼は「え?」みたいな表情で、手をひらいたり握ったりしている。


「ああ、こちらこそ」


 彼の差し出された右手を握る。あったかくて、大きくて、()()がある。

 頼りがいと優しさを感じる嬉しい瞬間だった。

次回は、俺の視点です。

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