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これが恋なら終わってる  作者: たろさん
第一章 出会いは何かしらの始まり
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第10話 誘惑

彼女の視点、公園から始まります。

「人見知りだったよね、私」


 買い物帰りに寄った小さな公園で、やっちゃんに電話で聞いてみた。

 自分でも分かっているはずなのに、自信がない。


「おお、そのはずだが。また、締め出されたのか」


「違うってば、買い物で外に出てるだけ。でも、いろいろあって帰りづらい。そのあと、どう接したらいいか悩んでるとこ」


 ちょうど休憩中だったやっちゃんも心配だったらしく、電話しようか考えていたらしい。


「じゃあ、普段の町家忍ではない、()()()という別のキャラを作って演じてみるってのはどうだ。なんか考えてみろ」


「なに言ってんの。おかしなマンガの見すぎじゃない?」


「いや、悪くないと思う。やってみて、相手の反応を見てみろ。ダメだったら、自分に戻ればいい」


「だけど、相手が不快に感じたらどうしよう」


「そんときは、素直に謝ればいい。あとは相手の包容力次第だ。あ、休憩時間終わるから、またあとでな」


「ごめんね、忙しいのに。じゃ、また」


 電話を切って、ため息をつく。ブランコの横においた大袋を見て、さらに大きなため息が出た。自分で使うもの、あのひとに買ったものと、食材が少し。こんだけ買えるなら、家賃払えっての。


「おい、帰るぞ」


 突然、あのひとの声。その声がした方には、え、あのひと?


「だれ?」


 とても同じひとには見えない、とても趣味のいい恰好とは言えないひとが立っていた。桃色のパーカーに紫色のミジンコのような模様?


「俺だよ、わかんねえのか」


 近づいてくる、やっぱりあのひとだ。

 だけど、また嘘ついた。よそ行きあったんだ、変だけど。


「趣味悪っ」


「は? 今、なんて言った」


 彼の怪訝そうな顔。でも、ここから試してみよう。


「その服、どうしたの。変だよ」


「おお、これな、会社の同僚からのもらいもん。サイズ間違えたとかで、無理やり押し付けられてな。そんなに変か?」


 彼は一瞬笑ったように見えたが、すぐに呆れたような困ったような顔をした。


「桃色って、なに? 全然、似合ってない。ありえないんだけど」


「てか、おまえ、なにその喋り方。ほんとは、そんなヤツだったのか?」


 明らかに不快そうな顔。やりすぎたかな。


「荷物持ってよ。重いんだから」


「うるせえな、早く帰るぞ」


 足元の大袋をつかんで、彼が歩いて行った。

 完全に怒っている。あの背中が、その歩き方が物語っている。


 たぶん『バスで行く』って嘘ついたことも怒ってるよね。

 小走りで後ろをついて行くけど、子泣き爺を背負っているかのように背中が重い。当たり前か、一度も振り向いてくれない。帰ったら、謝ろう。


 

 数分後、部屋に着くと、彼は黙って大袋を部屋の隅に置いた。


「あの、ごめんなさい」


「なにが」


 彼は壁の方を向いたまま、こちらを見ないで言った。


「バスで行くって嘘ついて。さっきの話し方、嫌でしたよね。それから……」


「心配したんだ。いい年こいて迷子になってたらどうしようかと。公園でおまえを見つけたとき、俺がどれだけホッとしたかわかるか?」


 振り向いた彼の顔は、今にも泣きそうに見えた。

 電話してくれたらよかったのに。……ああ、私がしなかったからか。


「なんだか帰りづらくて。怒ってるんじゃないかと思って」


 彼の大きなため息が、部屋中に広がった。


「別に、なんも怒ってねえよ。でもよ、今のおまえと、さっきのおまえさ、どっちが本当なんだ?」


「今が本当の私です。これから、どう接していいかわからなくて、あんなことしてしまって。本当にごめんなさい」


「もう、謝らなくていい。接し方なんか、ゆっくり慣れていけばいい。一緒にな」


 彼が微かに笑った。その笑顔に、私はホッとしたが、内心、呆れているんじゃないかとも思った。

 

 そういえば、ちょっと前まで、あんたって呼ばれていたのに、今は、おまえか。

 うれしいけど、少し恥ずかしい気もする。


 お互いの名前で呼び合うなんてこと、この先あるんだろうか。

 それが可能なら一度くらいは呼んでみたいとも思うけど、なんで下の名前は教えてくれないんだろう。


「……じゃあ、荷解きしますね。あなたに似合いそうなものあったんですよ」


「あー、それより丁寧な言葉遣い、やめにしねえか。タメグチでいいぞ、めんどくせえから」


 年が離れているのにできるわけないし、慣れてない。

 それに、まだそんなに仲がいいというわけでもないのに。


「あの、実は人見知りなんです。だから……」


「は? ウソつけ。今、普通に会話してんじゃねえか。それともなんだ、俺の前では平気とか言うなよな」


 なんとなく、そんな気も。最初の電話は、しどろもどろになってしまったけど、そのあとはなぜか平気だった。


「たぶん、初めてここで会ったときの第一印象が、アレだったからかと」


「なるほど、イカす恰好だったからな!」と彼は、ガハハと笑った。そして、目を覆う間もなく服を脱ぎ出し、いつものシャツとパンツ姿に戻った。


「いきなり脱がないでくださいよ。明らかに変態ですよ」


 私はフフッと笑った。この格好の方がしっくりくるような気がしてきた。

 それに、彼の笑った顔と豪快な笑い声、愛嬌があってなんかいい。


「そうそう、そうやって笑ってればいい。おまえは笑うとかわい……」


 と言いかけて、彼の表情が固まった。

次回は、俺の視点です。

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