そのお願い、たぶん一人分のシフトじゃないです(3)
全4回構成の3回目です。
「これを、家族に見せるんですか」
岸本悠真の声は、分掌盤の赤い光より頼りなかった。
三枝灯里は、その気持ちが分かった。
相談所で見るだけなら、まだいい。
問題があると認めるだけなら、まだ自分の中で済む。
けれど、それを家族の前に置くとなると、途端に怖くなる。
責めているように見えないか。
大げさだと思われないか。
母を困らせるだけではないか。
弟に嫌な顔をされないか。
悠真の表情には、そういう不安が全部出ていた。
有瀬玲は、壊れかけの分掌盤を軽く持ち上げた。
「古い試作品だ。持っていけ」
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな魔法の物、じゃなくて、廃棄品を人に渡さないでください」
灯里はすぐに言った。
「一週間だけ貸し出すスケジュール管理タブレットです。そう言いましょう」
「一週間だけ、貸し出す……」
悠真は言葉を繰り返した。
有瀬は少し不思議そうに首を傾ける。
「壊れているのだから返さずともよい」
「返却期限があった方が、現代では安心なんです」
「そういうものか」
「そういうものです」
悠真は分掌盤を見つめた。
「家で見せたら、家族にも同じことを聞かれると思います。何で予定が出るのかって」
灯里はうなずいて、自信満々に答えた。
「AIです」
悠真は、少しだけ笑った。
「本当に押し切るんですね」
「家族に最初から難しい説明をするよりは、話を聞いてもらいやすいと思います」
有瀬が感心したようにうなずいた。
「現代の術名は便利だな」
「術名じゃないです」
灯里は分掌盤の赤い文字が消えたのを確認してから、白い紙をもう一枚出した。
「ただ、これは家族を従わせる道具じゃないです。正しい分担を勝手に決めるものでもないです」
「はい」
「同じ盤面を見るための道具です」
灯里は、紙に四角を書いた。
「冷蔵庫に貼るホワイトボードとか、付箋とか、マグネットとか、共有カレンダーで似たことはできます」
灯里は四角を表にして、五つの欄を書いた。
悠真。
母。
弟。
未割当。
外に聞く。
「家族だけで回らない用事は、外に聞く欄へ置きます」
灯里は、最後の欄を指で示した。
「どこに聞けばいいかは、状況を話して確認することになります」
灯里は、言い切りすぎないように言葉を選んだ。
「ここで、薬の受け取り方とか、支援の使い方とかを断定することはできません」
「外に聞く欄……」
悠真は、その言葉を何度か口の中で転がした。
「家族の中で言えないことを、外へ出していいんですね」
「家族を責めるためじゃなくて、家だけで抱えないために」
有瀬が分掌盤を布に包んだ。
「家は、閉じた箱ではない。扉のある器だ」
灯里は少し考えた。
「外に相談していい、という意味です」
「そう言った」
「言ってないです」
悠真は、布に包まれた分掌盤を両手で受け取った。




