表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/14

そのお願い、たぶん一人分のシフトじゃないです(3)

全4回構成の3回目です。

「これを、家族に見せるんですか」


岸本悠真(きしもとゆうま)の声は、分掌盤(ぶんしょうばん)の赤い光より頼りなかった。


三枝灯里(さえぐさあかり)は、その気持ちが分かった。


相談所で見るだけなら、まだいい。


問題があると認めるだけなら、まだ自分の中で済む。


けれど、それを家族の前に置くとなると、途端に怖くなる。


責めているように見えないか。


大げさだと思われないか。


母を困らせるだけではないか。


弟に嫌な顔をされないか。


悠真の表情には、そういう不安が全部出ていた。


有瀬玲(ありせれい)は、壊れかけの分掌盤を軽く持ち上げた。


「古い試作品だ。持っていけ」


「ちょ、ちょっと待ってください。そんな魔法の物、じゃなくて、廃棄品を人に渡さないでください」


灯里はすぐに言った。


「一週間だけ貸し出すスケジュール管理タブレットです。そう言いましょう」


「一週間だけ、貸し出す……」


悠真は言葉を繰り返した。


有瀬は少し不思議そうに首を傾ける。


「壊れているのだから返さずともよい」


「返却期限があった方が、現代では安心なんです」


「そういうものか」


「そういうものです」


悠真は分掌盤を見つめた。


「家で見せたら、家族にも同じことを聞かれると思います。何で予定が出るのかって」


灯里はうなずいて、自信満々に答えた。


「AIです」


悠真は、少しだけ笑った。


「本当に押し切るんですね」


「家族に最初から難しい説明をするよりは、話を聞いてもらいやすいと思います」


有瀬が感心したようにうなずいた。


「現代の術名は便利だな」


「術名じゃないです」


灯里は分掌盤の赤い文字が消えたのを確認してから、白い紙をもう一枚出した。


「ただ、これは家族を従わせる道具じゃないです。正しい分担を勝手に決めるものでもないです」


「はい」


「同じ盤面を見るための道具です」


灯里は、紙に四角を書いた。


「冷蔵庫に貼るホワイトボードとか、付箋とか、マグネットとか、共有カレンダーで似たことはできます」


灯里は四角を表にして、五つの欄を書いた。


悠真。


母。


弟。


未割当。


外に聞く。


「家族だけで回らない用事は、外に聞く欄へ置きます」


灯里は、最後の欄を指で示した。


「どこに聞けばいいかは、状況を話して確認することになります」


灯里は、言い切りすぎないように言葉を選んだ。


「ここで、薬の受け取り方とか、支援の使い方とかを断定することはできません」


「外に聞く欄……」


悠真は、その言葉を何度か口の中で転がした。


「家族の中で言えないことを、外へ出していいんですね」


「家族を責めるためじゃなくて、家だけで抱えないために」


有瀬が分掌盤を布に包んだ。


「家は、閉じた箱ではない。扉のある器だ」


灯里は少し考えた。


「外に相談していい、という意味です」


「そう言った」


「言ってないです」


悠真は、布に包まれた分掌盤を両手で受け取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ