最も伝えたい言葉
「…………」
しばし、無言で手紙を握り締める。もう幾度も目にした、なんとも愛嬌溢れる丸文字で綴られた友希哉の手紙を。……だけど、どうしてだろう。こんなに近くにあるのに、いつの間にか文字が霞んでいって――
「……随分と、久しぶりだったんだ。友希哉が、笑顔を見せてくれたのは」
「…………へっ?」
すると、ふと届いた声に顔をハッと上げる僕。……しまった、こんな情けない顔を……だけど、霞んだ視界でもはっきり分かるほど、お二人の表情は柔らかな暖かさに満ちていて。
「……僕らも詳しいことは知らないんだけど、友希哉は昔、恋愛事で辛い思いをしたみたいでね。それ以降、あの子が笑ったところを見たことがなかった。
だけど、二年前のある日……久しぶりに、あの子の笑顔を見た。僕らがずっと、ずっと見たくて仕方のなかった……いつかまた見れると待ち焦がれていた、あの太陽のような笑顔で言ったんだ。好きな人ができた、とね」
「…………友希哉」
お父さまのお話に、ポツリと呟きを零す僕。……もちろん、友希哉の気持ちを疑っていたわけじゃない。それでも……それほどまでに、彼は僕のことを――
「……だから、僕らはずっと言いたかった。もちろん、友希哉がいなくなってしまったことは辛く寂しい。それでも……あの子を再び笑顔にしてくれた君に、ずっと言いたかった。……本当にありがとう、恭一くん」
「……お父さま」
そう、真っ直ぐ僕の目を見つめ告げるお父さま。そっと視線を移すと、同じくお母さまも僕を見つめてくれていて。未だ、視界は霞んだまま……それでも、きっと拭うところじゃない。お二人を真っ直ぐに見つめ、震える声でどうにか口にする。今、僕が最も伝えるべき……いや、最も伝えたい言葉を。
「……お父さま、お母さま……こちらこそ、本当に……本当に、ありがとうございます」
「良かったですね、由良先生」
「……まあ、僕にそれを言う権利があるのかは分からないけど……でも、そうだね。きっと、良かったと言うべきなんだろうね」
「……全く、面倒な人ですね。まあ、貴方らしいですけど」
その後、暫くして。
朱く染まった空の下を、穏やかな雰囲気で歩いて行く僕ら。……面倒、か。まあ、そうなんだろうね、余計な前置きなんてせず、素直に良かったと言うところなんだろうし。ご両親のためにも、友希哉のためにも……そして――
「……今日、ここに来れたのは……ようやく、謝罪を伝えられたのは、間違いなく君のお陰だ。だから……本当にありがとう、蒔野さん」
そう、じっとその瞳を見つめ告げる。すると、少し悪戯っぽく――そして、優しく微笑みどういたしましてと伝えてくれた。




