船原友希哉
「どうぞ、恭一くん、蒔野さん。お口に合うと良いんだけどね」
「あ、ありがとうございます! あっ、こちら心ばかりのものですが……」
「おや、わざわざありがとう恭一くん。それじゃあ、後で皆で頂こうか。その時はまたお茶を淹れるよ」
「……へっ? あっ、そんなわざわざ……その、ありがとうございます」
その後、ほどなくして。
和の雰囲気が心地の好い畳の居間にて、見るからに上質そうなお茶と和菓子を用意してくださるご両親。そんなお二人に蒔野さん共々感謝を告げ、心ばかりの手土産をお渡しする。一応、由緒ある老舗のどら焼きなのだけど……どうか、お二人のお口に合いますように。
「それで、恭一くんは今教師を務めているんだよね? すごいね、僕にはとても出来そうにないから」
「あっ、いえそんな! その、僕はまだまだ未熟で、力及ばないことばかりで……それでも、こんな僕を支えてくれる人達がいて、どうにか続けられている次第です」
「まあ、それは仕方がないよ。まだ教師になって月日も浅いんだから。でも、支えてくれる人がいるのは、きっと君自身がその人のために何か行動したからだと僕は思う」
「ええ、私も。こうして話しているだけでも、恭一さんの誠実なお人柄が窺えるし……何より、貴方の大切な生徒さんを見れば一目瞭然……ねえ、蒔野さん?」
「はい。何の誇張もなく、今の私があるのは由良先生のお陰……彼が、私を救ってくれたんです」
「……お父さま、お母さま……蒔野さん」
そう、優しい声音で告げてくれるご両親と蒔野さん。僕を見る皆の目は、声音に違わぬ暖かな優しさに溢れていて。本当に申し訳なく……そして、それ以上にありがたく思う。
……だけど、だからこそ甘えていてはいけない。高鳴る鼓動を抑えるように、自身の左胸に手を当てつつ呼吸を整える。そして、喉から押し出すようどうにか声を振り絞り――
「……あの、お父さま、お母さま。友希哉くんが……お二人の大切なご子息がその尊い生涯に幕を閉じたのは、他でもない僕の責任です。本当に……本当に、申し訳ありません」
そう、ゆっくりと言葉を紡ぐ。暫し、沈黙が場を支配する。その間、僕はじっと俯いて……いや、分かっている。逃げちゃいけないって。……それでも、怖い。どんな瞳を……どんな言葉を向けられるか――
「……良かったら、これを読んでくれないかい。恭一くん」
「……へっ?」
卒然、すっと届いた柔らかな声。顔を上げると、視界には真っ白な封筒が一つ。……えっと、僕に、だよね? 一応ご了承を頂き、ゆっくりと封をあける。すると、現れたのは三つ折りになった一枚の用紙。これが何か……流石に、確認するまでもない。お二人のご子息――そして、僕の大切な友人たる友希哉の手紙。きっと、最期に僕に宛てた手紙だろう。
……うん、分かってる。ただ、この紙を開くだけ……ただ、それだけのこと。……なのに、開かない。先ほど以上にいっそう震える手が、開くのを……内容を目にするのを拒むように――
「…………蒔野さん」
ふと、ポツリと呟く。隣にいる彼女が、そっと僕の手を取ったから。大丈夫です――言葉にせずとも、その優しい手が……その暖かな微笑みが伝えてくれる。そんな彼女に、僕も微笑みそっと頷く。
……うん、ありがとう。もう、大丈夫。すっかり震えの止まった手で、ゆっくりと手紙を開く。すると、そこには――




