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狂った針は戻らない  作者: 暦海


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46/60

責務

「…………ふぅ」



 それから、およそ数日経た休日の16時頃。

 今一度、深く呼吸を整える。今、僕がいるのは牧歌的な田園風景の中に佇む茅葺き屋根の一軒家。表札には刻まれた名は、船原――僕のせいでその尊い生涯に幕を閉じた友人、船原ふなばら友希哉ゆきやのご両親のお宅で。



 ――ずっと、思っていた。いつか、訪れなくてはならないと。もちろん、何の贖罪にもならないことは分かってる。それでも、お二人に対し誠心誠意で以て謝罪をしなくてはならないとは思っていた。それが、こんなにも遅くなって……本当、情けのない自分が嫌になる。


 だけど、ようやく来れた。本当に遅くなったけど、ようやくここまで来れた。そして、それは――



「――大丈夫ですよ、由良ゆら先生」



 そう、そっと僕の手を握り告げる少女。そんな彼女の手を、僕もそっと握り返し感謝を告げる。……うん、ありがとう蒔野まきのさん。





『――宜しければ、私もお供しましょうか?』

『……へっ?』



 数日前、昼休みのこと。

 屋上にて、僕の話を聞き終えた後ややあってそう問い掛ける蒔野さん。お供とは、もちろん数日後の予定――先ほど話した、友希哉のご両親を訪問する予定についてで。


 ……でも、流石にそれは申し訳ないというか。きっと僕は、ご両親に深く恨まれていて……そして、それも当然で……なので、そういう場所に蒔野さんを巻き込むのは流石に――



「……蒔野さん」


 そんな懸念の最中さなか、ポツリと呟きを零す僕。ふと、彼女が僕の手を取ったから。そして、再び僕に微笑み言葉を紡ぐ。



『……嫌なら、是非そう仰ってください。ですが、私は少しでも貴方の支えになりたいと思っています。それをご理解いただいた上で、もう一度お尋ねします。宜しければ、私もお供しましょうか?』





 そういうわけで、共に船原家へとやって来た僕ら。今思えば、こうしてここに来られたことすら彼女がいてくれたからかも。一度決めたこととは言え、僕一人なら理由を付けて逃げ出すことも出来た。


 だけど、彼女が――蒔野さんが一緒となると話は別。今更ながら、出来ればこれ以上情けないところは見せたくないし……何より、僕の支えになりたいといってくれた彼女の想いを無下にすることだけは、絶対に出来ないから。



「…………ふぅ」



 今一度、深く呼吸を整える。……いや、何度整えてるんだと自分でも思うけれど、今度こそ扉に近づきそっとインターホンに触れる。すると、ややあって応答の声が届く。彼によく似た、柔らかな男性の声が。そして――



「……こんにちは、船原さま。改めてですが、お二方にお会いしたいという手前勝手な要望をご了承いただき、誠にありがとうございます。そして、改めてですが……かつて友希哉くんの上司を務めていた、由良恭一(きょういち)と申します」



 そう、緊張の中伝える。声が震え、鼓動が甚く速まっているのが分かる。その後、待つこと暫し。そして――



「――こんにちは、恭一くん。それから、蒔野さん、だよね? 恭一くんの教え子の」

「来てくれて嬉しいわ、二人とも。何もないところだけど、どうぞ上がっていって」

「……へっ? あ、はい!」


 すると、インターホン越しではなく直接出迎え招いてくださるご夫婦。お二人とも、柔らかな微笑が印象的な素敵な方々で。


 少し顔を見合わせた後、丁重に謝意を伝えお二人の招きに応じる僕ら。……だけど、大切なのはここから。今以上、嫌われることに……恨まれることになっても構わない――僕は、僕の責務を果たす他ないのだから。

 





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