第63話:辛烈なる魂の味
涼しい場所に戻った私たちは、もう一度、封印の像の前に集まった。
メグーちゃんが静かに佇みながら、円柱の装置の中に浮かぶ女性を見上げている。
その横顔に、どこか痛みに似たものが宿っていた。
「メグーちゃん……私も解放……させてあげたい」
声が出た。
震えていたけれど、確かに私はそう思っていた。
この人が何者かは分からない。
でも、メグーちゃんがここまで感情を表すのを、私は今まで見たことがない。
それだけで──この人が大切な存在であることは、分かる気がした。
「お母さん……ありがとう」
メグーちゃんがそっと歩み寄り、装置の外から私の胸元に額を預けた。
私はぎこちなくも、優しさを込めてメグーちゃんの銀髪を撫でた。
指先が微かに震えていたけれど、このくらいはできる。
「それでは……どうするべきか、話そう」
ミリアリアさんの声が、静かに響いた。
「俺はいいと思うぜェ」
オーグさんの声は荒々しくも、どこか真っ直ぐだった。
「ふむ……ケビンはどうだ?」
「僕も……賛成です」
「……アニーとメグーは聞くまでもないようだな」
「はい、私も……龍をアイテムに換えることに……賛成……です」
震えながらも、真っ直ぐに言えた。
ミリアリアさんは深く息を吐き、静かに言った。
「よかろう……ならば、ケビンよ、頼んだ」
「はい」
ケビンさんが一歩前へ出る。
彼は両手を掲げ、山のようにそびえる龍へと向ける。
「開始します」
その言葉と同時に、龍の巨体がふっと軽い音を立てて消えた。
空気が一瞬、真空のように静まり返る。
そして、ケビンさんの指先に黒曜石の串が現れ、幻のような焔が灯る。
炎ではない。でも、確かに熱を持ち、魂のように揺らめいていた。
串に刺さった肉がじわじわと焼かれていく。
立ち上る気配は、言葉にできない重みと──どこか懐かしい温度を帯びていた。
(また、この感覚)
やがて、焔が静かに消え、ケビンさんの手には一本の串が残された。
ケビンさんは無言で串を差し出す。
メグーちゃんはそれを受け取り、しばし見つめた。
赤銅色の肉は微かに脈動し、焦げ目の間からは芳ばしい気配が立ちのぼる。
メグーちゃんは一度、私を見た。
その視線は静かに問いかけていた。私は微笑みで応えた。
メグーちゃんは小さく頷き、串を唇に運ぶ。
ひとくち。
その瞬間、彼女の瞳がわずかに見開かれた。
驚きではない。深く、静かに、何かを受け入れるような表情。
「……ああ、これは……」
「……美味しい。けれど……これは、か、辛いわね……でも止まらない」
もう一口、静かに口に運ぶ。
頬がわずかに紅潮し、銀の髪が微かに揺れた。
そのときだった。
私の周囲に、ふわりと赤い光の粒が舞い始めた。
まるで空気そのものが熱を帯び、命の余韻を震わせているかのように。
光はゆっくりと渦を描きながら、私の身体を包み込む。
淡く、けれど確かな存在感を持ったその粒子は、どこか温かく、懐かしい気配を帯びていた。
「アニーさん!?」
ケビンさんの声が、空気を震わせた。
(これは……スキルが増えていく感覚だ)
地龍も、水龍も、天龍も、こんな感覚だった。
でも今回のは──もっと深い。
大地の底から、滾るような熱と意志が、根を張るように流れ込んでくる。
私はゆっくりと顔を上げた。
「わ、私は大丈夫です」
ケビンさんに小さく頷いた。大丈夫、と伝えるように。
スキル一覧をそっと確認した。
(……増えた)
胸の奥に、ずっしりとした何かが宿る感覚がある。
天龍の時とは違う。もっと根深く、もっと大きい。
ゆっくりとミリアリアさんへと顔を向けた。
「……ミリアリアさん……スキルで……龍を生み出せるようになりました」
ミリアリアさんはその言葉を受け、しばし、静かに私を見つめた。
蒼い瞳が細められ、やがて、ゆっくりと頷く。
その仕草に、言葉にできない何かを感じた。




