↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も食べない世界に真実を  作者: 農民
第2章:古都の傲焔
PR
62/281

第62話:熱気の中の選択


 私の言葉に、仲間たちは一瞬の静寂の後、無言で頷いてくれた。


 灼熱の空気が肌を刺す中、一行は再び龍の眠る空間へと足を踏み入れる。

 建物の床は熱で歪み、地面からは湯気が立ち上っていた。

 視界の先に、まるで山のような巨体が横たわっている。


 圧倒的な存在感に、誰もが言葉を失う。

 私は思わず息を呑み、前髪の奥で見開いた瞳が、龍の蒼黒い鱗に釘付けになる。


(大きい。地龍の……何倍あるんだろう)


「間近で見ると、やっぱ、でけェなおい」


 オーグさんが感嘆の声を上げる。


「うむ……では、手分けして逆鱗を確認するぞ……間違っても龍に触れるな」


 ミリアリアさんの声は落ち着いていたが、その瞳には鋭い光が宿っていた。


 仲間たちはそれぞれ頷き、慎重に龍の周囲へと散っていく。

 私も、龍の右側を担当した。


 鱗一枚一枚が岩のように硬質で、光を受けて鈍く輝いている。

 逆鱗の位置は個体ごとに異なる。地龍も水龍も、見つけるまでに時間がかかった。


(でも……この龍は、今まで見た龍と違う気がする)


 近づけば近づくほど、胸の奥がざわめく。


「うひー、あちぃな、おい」


 オーグさんが堪らず声を上げ、手のひらで顔を扇ぐ。


「こっちも暑いのよ、口にしないで」


 ミリアリアさんが眉をひそめて言うと、オーグさんは肩をすくめた。


「へいへい」


 その時、静寂を破るように、ケビンさんの声が響いた。


「……ありました!逆鱗です!」


 声に、皆が一斉に振り返る。

 ケビンさんは龍の頭部、鼻先のあたりを指差していた。

 彼の顔には驚きと達成感が入り混じった表情が浮かんでいる。

 いつも自信なさそうな彼が、今だけは胸を張っていた。


「助かったぜェ!ケビン!」


 オーグさんが豪快に笑いながら叫ぶ。


「い、いえ!」


 ケビンさんは顔を赤らめ、慌てて手を振る。


「俺は熱いのが苦手で……これで解放されるぜェ」


 ミリアリアさんが一歩前に出ると、皆は自然と道を開けた。

 彼女の金髪が熱風に揺れ、蒼い瞳が逆鱗を鋭く見据える。


「……71……この龍!間違いないぞ!71柱目の龍だ!」


 その声に、場の空気が一変する。

 この発見が持つ意味は、私にも分かった。


 オーグさんが腕を組みながら言う。


「んでだ。どうするよォ、ケビンにアイテムへ変えてもらうか?」


「お願い……解放させたいの」


 メグーちゃんが静かに口を開いた。


「……龍がいつ動き出すかもわからん。ならば、ここでアイテムに換えて、倒してしまうという判断もできる」


「それなら!」


 メグーちゃんが何かを言いかけたその瞬間、ミリアリアさんがすっと手を上げた。


「しかし……先も言ったが、龍が封じておる人物……それを解き放つことに、我は未だ迷いを拭えぬ。何者かも分からぬ存在を、ただの情に流されて解き放つなど……それは、あまりに軽率ではないか」


「いいんじゃねェかァ?やっちまえばよォ」


 沈黙を破ったのは、オーグさんの豪快な声だった。


「オーグ!無責任が過ぎるぞ!」


「姉御ォ……怒鳴らなくてもいいじゃねェかよォ。オレだって、ちっとは考えて言ってんだぜ?」


「でも……メグーさんがここまで言うなら、僕は邪悪な人じゃないと思っています」


 ケビンさんの声は震えていたが、真っ直ぐだった。


「だけどよォ、これから別のダンジョンに行ってよォ、72柱目の龍を探すんだろォ?」


「ああ、そのつもりだ」


「ならよォ、龍をチンチクリンが生み出せるようになるってのは、でけェんじゃねェか?」


 オーグさんの言葉に、私は目を見開いた。


「オーグ、アンタ、たまにはいいこと言うわね」


「たまにはは、余計だぜェ」


 そのやり取りに、私は思わず口元を緩めた。


「……皆の意見をまとめたい。賛成か反対か……結論が出せぬのか、それを教えてくれ」


 ミリアリアさんの言葉に、仲間たちは互いに視線を交わしながら、次々と頷いた。

 でも、オーグさんだけが腕を組んだまま、黙り込んでいた。


「と、とりあえずよォ……」


「どうした?」


「暑いから……戻らねェか?」


 その瞬間、場に流れていた緊張の糸がぷつりと切れた。

 誰かが吹き出し、それにつられるように、次々と笑いがこぼれる。

 私も袖で口元を隠しながら小さく笑った。ケビンさんは肩を震わせていた。

 メグーちゃんでさえ、口元をわずかに緩めている。


「……まったく、お前というやつは。だが、確かにそうだな。このような熱気の中、言葉を交わすのは避けるべきだろう」


 ミリアリアさんが呆れたようにため息をついたが、その声にはどこか安堵の色が混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。